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1章 学校が始まった

6 模擬戦

 初の実技ということで、タシロ先生は丁寧に模擬戦の方法を説明していた。

 学校において、実技はその都度ルールが異なるらしい。今回は初回ということもあり、悪魔を一体召喚することはルールとなっていた。また、今日から数回にかけては先輩がアシスタントにつき、模擬戦の形を覚えて行くことになる。


 一連の説明の後には、各ステージへと誘導がされた。どうやら、私は左から二番目の一番手前らしい。このステージには、10人の人が向かって行った。先輩も、1年次の側にきっちり10人が待機している。

 その内の一人が、適当にペアを組ませた。どうやら、ステージ自体は10人いるが、今回は1対1での試合を想定しているらしい。それもそうか。学生は戦闘に慣れていないため、いきなり協力が必要かつ多くの人をマークしなければらないグループ戦は厳しいに違いない。


 セイレーヌとペアになった者は、他クラスのサイモンという少女であった。

 サイモンはどうやらおしゃべりであるらしく、自己紹介をした後も、くだらない話を喋り続けていた。学校の事とか、家の事とか。

 あまりにもおしゃべりなため、ほぼ聞き流していたので、先輩の話も危うく聞き流しそうになった。

「よろしくね。俺はネクト。君は?」

「セイラ。」

うん。この名前で行こう。


クラスでは変化(へんげ)魔法を使うことはできないが、クラスの外では誰が誰であるか皆を把握していないため有効だ。

セイレーヌは一連の噂にうんざりしており、ここに来るまでに変化(へんげ)をしていた。

今しがた、その際の仮名が決まったということである。


「セイラさんね。何か質問はある?って実戦もまだだし、もしかして戦い方から説明がいる?」

ネクトと名乗った先輩は、丁寧な性格でありながら、軽いらしい。

「質問ないし、必要ない。」と丁重に断ると、「えー。可愛くなーい。」というやけに馴れ馴れしい反応が来た。

先輩とはこういうものなのだろうか?

私はかつて職場の“先輩”というポジションにいたナツという人間を思い出しながらそう考えた。

彼もまた、こんな性格の男だった。


 「んー。じゃあ、もう悪魔を召喚しといたら?契約したばっかでしょ?」

 私には3体の契約悪魔がいる。正直、悪魔は用事がある際に適当に依頼すれば良いので、必要な時に契約させられたきりである。

 召喚できる悪魔は一体。どうすべきか。考え抜いた結果、バカを呼び出す事にした。

 悪魔の扱いに慣れていないまま仕事で使役するのも危険だし、今の内に扱えるようにしといた方がいいと判断したからである。


 <召喚、バカ>

 「セイレーヌのお嬢、呼んだか?」

 げ。名前……。

 私は先輩には聞こえないように「名前は呼ぶな。」と言った。

 おそるおそる先輩を見ると、喉を鳴らして笑っていたため聞こえていなかったらしい。

 って。

 「何、笑ってるんですか?」

 


 「いやー。だってバカって……セイラさん。何か怨みでもあったの?」

 「あっ・・何でもない。」

 セイレーヌは、おかしな名前をつけたことなど、すっかり忘れていた。先輩はその様子を見て、さらに笑いがこみ上げてきたようであった。

 「何でもないって……。可愛いんだか、可愛くないんだか分からないやつだなぁ。」

 「余計なお世話だ。」

 とは言ったが顔が火照っている。可愛いと言われたことに対してなのか、バカについて突っ込まれたせいなのかは自分でも分からない。ただ、彼の基準は可愛いか否からしく、少しそれが不服でもある。


 「で、本当に質問ないの?」

 あまりにも脱線したせいか、先輩は強引に話題を戻した。


 実はきになることが、本当は一つだけ存在する。そう、それは……。

 「先輩の能力ランクは?」

 「……へっ?ああ、Bだよ。」

 予想外の質問だったらしく、しばらく返事が返って来るまでに時間があった。が、私にはこちらの方が興味がある。どうせ、先輩とも戦ってみましょう。と言われるオチは見えている。“可愛い後輩”である内に情報を仕入れるだけ仕入れよう。

 もとより、名門学校における学生の能力は知っておきたいと思っていた。


 「では、セルシオ先輩は?」

 「ああ、彼はAランク。学校でも珍しいんだよ。」

 「そうなんですか。彼のように強い人は他にいますか?」

 「有名なやつは結構いるよ。例えばあの人とかあの人。」

 先輩は指をさして懇切丁寧に教えてくれた。指した一人の中には、セルシオ先輩と戦った人もいた。

 「へー。そうなんですか。どんな魔法使うんですか?」


 自分の直前まで散々情報を仕入れ、沢山の情報を手に入れた。私の能力?そんなのカンストだ。定期の診断では魔力測定器を破壊した。もっとも、魔力制御がされている今は、Sランク相当ではなかろうか。

 少なくともそんな学生はいなそうなので、今後困りそうなことは、あまり想定しなくて良いだろう。


 「はい、次!」

 教師の合図とともに、私はステージへ進んだ。私の数百メートル先にはサイモンがいる。彼女は他のクラス。データがない。いくら能力に差があるといえど、環境は時にそれを覆すので、慎重に行かねばなるまい。

開始の合図が鳴った後も、セイレーヌは様子見に出ることとした。


 <氷結魔法、詠唱!>

 サイモンの魔法によって、氷柱にも、雹にも見える氷の塊がこちらに飛んできた。

 が、距離が足りず、途中で落ちた。

 「無理しないで前に出ろー!」

 先輩の声が遠くから聞こえる。うん。私の感覚が間違えていた。


 サイモンは距離が届かないと分かると、召喚していた悪魔を此方に向うよう指示をした。その間、サイモンさんも走って此方に向かって走っている。

 「こいつ、美味そう。食べていい?」

 「だめ。」

 は?セイレーヌは驚いた。悪魔は悪魔を食すのかと。この期に及んで気味の悪い事を学んだ者である。

 もう2体契約している悪魔のテキスとハルサは、そんな発言をした事が無かった。

 悪魔は折角あの子が今日頑張って契約した悪魔だろうから倒したくない。


 「セイラさん、攻撃仕掛けないの?」

 悪魔を諭しているうちに、サイモンは数十メートルほど先に来ていた。

 「先輩、どの程度まで攻撃して良いんですか?」

 「あー。どーせ十分の一しか威力出ないし、全力でも全然平気だよー。じゃなきゃ訓練にならないっしょ。」


 ふむ。質問を変えよう。

 「勝敗条件は?」

 「相手が気絶するか、疲れて動けないと審判に判定されるか、リタイアされたら。」

 私はくるっと振り返りバカを見た。

 「バカ、魔法何が使えるのか?」

 どうせならバカに戦わせて、実戦慣れさせておきたい。

 「後でまとめておこう。とりあえず属性は空間、闇、地が使える。」


 「地割れとか出来るか?」

 ダメ元で聞いてみた。が、案の定。

 「Aランク魔法の地属性は流石に無理だ。生憎、闇が専門なんでな。」

 バッサリ切られてしまった。あくまでも血は見たくない。グロは遠慮願いたい。

 いつかは克服しなきゃと思っているが、血にはトラウマがあるため、今はまだリスクが高すぎる。


 闇にしたって、その属性ゆえの負の感情誘発で、万が一私まで巻き込まれたら厄介だ。

 私が何をしでかすか分からない。闇属性はもう少しバカと親密になって、息が合ってからだな。

 <>

 結局、今ある手札の中から、最も最善な手を検討した結果、サイモンは気絶した。

 申し訳ないが、低レベル魔法を無詠唱で発動させた次第だ。サイモンはやはり結界さえ張らなかった。


 隣でサイモンの付き添いであったアルレリン先輩が

 「マジに気絶させたよ。しかも無詠唱。嘘だろ・・。」

 と呟いたことをセイレーヌは聞き取れなかった。

 やはりセイレーヌの常識はとことん異常であるという事に彼女自身は、気づき切れていないのであった。


 その帰り、通路で言い争いになっているのが目に入った。

 普段の私なら教師もいるし、適当に帰っただろう。

 が、今回は相手が相手だった。あの自慢好きのテイトである。クラスメートであるし、放置するわけにも行くまい。

 私は来た道を戻り、ステージの方に足を向けた。


 「お前、生意気なんだよ。年下の癖に俺にたてついて。」

 ふむ。テイトはクラスでは承認欲求を満たせず、先輩にも口を出したのか?


 「何があった?」

 「何があった?じゃねーよ。こいつ、俺のさっきの試合みて俺のが上手く躱せたとか言いやがって。」

 「テイトの無礼はクラスメートとして詫びる。許せ。」

 「は?大体お前も俺にタメとかふざけてるだろ。何が許せだよ。」


 “王族”としての振る舞いが身についているセイレーヌは、敬語が未だに慣れず、自覚なくしてよく敬語を忘れていた。

 と言っても、今回はあまりに稚拙な言い争いであるから、敬語を使うこと自体に抵抗があったわけであるが。ここは腹をくくるしかないな。

 セイレーヌは、年功序列を嫌い、尊敬する人に対してしか敬語を使いたいと思えない性分であった。


 「先輩、ごめんなさい。そうですよね!テイト君のご無礼、許して下さいませんか?」

 しかし、そんなことは誰も想像できないくらい、それはもう天使の微笑みのような笑顔で。セイレーヌの一生に一度にあるかないかのような笑顔で、先輩にそう聞いてみた。

 「は?誰が許すかよ。」

 だからこそ、人が折角下手に出たと言うにも関わらず、このような態度に出る先輩に対して、セイレーヌは苛立ちを覚えていた。


 ゆえに、セイレーヌは、気付かぬ内に、セルシオ先輩の相手をしていた、この偉そうなシーヴァ先輩のネクタイを掴んでいた。

 そして、そのまま耳に口を近づけ「調子に乗るのも大概にしろよ。」と低い声で言った。

 それはさながら地を這うような声であり、威圧するには十分なものであった。


 セイレーヌは、シーヴァ先輩が一瞬怯んだ隙に、テイトの腕を掴みそのまま地下を後にする。

 これが後の()()()になるとは知らずに。


あれだけ盛っておいてあっけない……!

せめて楽しませてくださいよ、セイレーヌさん。

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