1章:学校が始まった
4 初めての授業
2-Eという、定められた自教室に入る。相変わらず好奇の目に晒されるため、教室には入りにくい。席につき、周囲を見回すと、初日にも関わらずグループ作られており、いくつかの輪が観測できた。
ゆくゆくは仕事をこなすための結社を持つようになることから、こうした結束能力は求められる資質であり、それを鑑みれば同然の結果かもしれない。
その中でとりわけ大きい輪を作っているグループの中心にいるのは、先ほどヒトの事を見ては噂していたテイトという少年であった。
彼は、自分の実力をしきりに自慢している。結束能力が非常に高い男であり、それは賞賛に値するが、先程からの自慢話がどうにもいけ好かない。
「俺、セイレーヌとティアーナより魔法力あるぜ。あんなのただ親が実力者なだけだろ。」
何を根拠に……とセイレーヌは思う。しかしここで手を出し、実力を競うほど愚かでもない。そこまで子供じみた真似をするわけがなかった。
そのため、テイトが名を出したティアーナの方が気にかかった。彼がわざわざ張り合って自慢するとなると、結構な実力者なのだろう。
クラスにはティアーナという名の少女が確かに存在する。彼女を見れば至って笑顔で微笑ましそうにテイトを眺めているだけであった。彼女の存在は覚えておいて損はない。
視線をテイトに戻すと、彼を囲んだ連中らが「「そうだ!そうだ!」」と心酔している様が見える。呆れたものだ。だが、それだけのカリスマ性を彼が有していることも覚えておいて損はないだろう。
所詮は実力社会であるため、いくら教員がクラスの結束を訴えようとも、やはり結果はクラスの序列決めとなってしまう。
こうした空気は感染していき、暫くするとテイトを中心として1つの輪が出来上がっていた。
概ね、目の敵にされたくないだとか、早いうちからとり入るべきだという損得勘定によるものだろう。初日にも関わらず、2-Eはテイトをクラスのリーダーに据え、テイトの友人が次に発言の権力を有する形となっていた。
さらに様子を見ると、テイトに心酔していた連中らにも色々権限が与えられてるよう見受けられたが、あとから疎らにやって来た連中は、ちょっかいをかけられる対象にならないだけの存在に見える。
テイトについていかなかった数人のクラスメートは、止めるほどの大事に至ってはいないものの、皆ちょっかいをかけられていた。
ことが大きく慣れば止めに入るが、行なっていることは子供のいたずら程度であり、ちょっかいをかけられたものも特に困っている様子はないため、悪目立ちしないためにも放置する。
担任であるタシロ先生も、さほど気にすることではないと判断したのか、あるいはむしろ団結しているように見えるのかは断言できないが、とにかく何も言うつもりはなさそうであった。
ただ、ホームルームを行うために、いつまでも話をやめないテイトには静かにするように注意だけはしていた。
さて、ホームルームが始めると、今まですっかりおとなしく鳴りを潜めていたタシロ先生が、ここぞとばかりに意気込んでいた。
後ろに髪を束ね、その髪をさらに紙で纏める様はさながら清廉な淑女であるが、言動がどうにもそれをぶち壊している。
「今日からきっちり勉強が始まりますよ〜。」
という言葉に生徒が喚き散らすのも気にせずに、語尾に音符でも付きそうな勢いで一人延々話し続けていた。
だが、途中になってようやく生徒が自分の話を聞いていないことに気づいたのか<静寂>の魔法をかけ、強制的に教室内を静かにしていた。
手元にはタシロ先生によって配られたIDカード。生徒は暇そうにそれを弄んでいる。
彼女によれば、このカードは自動販売機や学食は勿論の事、PCルームやその他学校の設備を利用するために必要となるものらしい。当然身分を証明するものとなるため、紛失しないよう厳重管理が必要となる。
最も、自分の魔力と紐付けたIDカードであるため、他の魔族が使うことは不可能であり、盗難の可能性は極めて低い。
タシロ先生は、「地下はIDでも、認められた時間しか入室出来ないので、近付かないようにねっ」という注意だけ付け足して、クラスを後にした。
どうやら近々利用機会があり、それまで地下探索はできない様子である。少しそれにしょんぼりとしたセイレーヌは、やはり子供そのものであった。
ホームルームを終えれば、タシロ先生が予告していたように授業が行われる。初日の授業と言うこともあり、基礎的な内容だ。
授業内容は魔法属性、及び系列といったところ。
火、水、風、地、雷、闇、光という7つ存在する基本魔法属性と、それら7つから派生した地に含まれる空間、闇に含まれる月、光という属性を加えた計10種で成り立っている。
この中でも、空間は若干の風の知識もなくてはいけないため難易度が高い。魔族によって適性魔法があるため、地と風の両方に適性がなければ空間魔法の操作は難しいと言えるだろう。
セイレーヌにとってこの程度の説明は取るに足らないことであったが、ノート点検があるため止むを得ずメモを残すことにした。火、水、風、地、雷は基本的攻撃魔法であること、それぞれの魔法例や特性、魔力の放出方法をまとめていく。
特記すべきは、水は氷、風は鎌鼬ような形でも利用が可能なこと、闇・光魔法は難易度が高い点であろう。光と闇の扱いが難しい理由は、上記5属性同様大気のエネルギーを魔力で吸収する他、負の感情、あるいは正の感情をコントロールしないといけない点にあるのであるが、本授業ではそのことにまで踏み込んでいない。
セイレーヌは、父を失ったトラウマから、負の感情に取り込まれるとうまくコントロールできないため、さして闇魔法は使えない。
己の弱さに嘆きつつ、「魔力不足である場合に、完璧な魔法円を描こうとも魔法の発現が不可能であるため、レベルにあった魔法を利用するように。」と先程から小うるさく先生がいっている言葉も加えておいた。そして、空間魔法に当たるタイムトリップが禁術である点も、先ほどの魔法例メモに赤線を引き、加えておいた。
あれは阿呆くさいほど難易度が高いくせに、使用禁止なのだ。我が父上に会えないのも、異世界転移した時の話を聞くことができないのも、この妙な規則のせいと言える。
中央機関なる機関が仕事で求める場合には使用可能であるが、それ以外に用いることはできないため、この世で最も無意味な魔法であるとセイレーヌは考えている。とても皆が名誉な事だと、血眼になって覚えようとする様は理解できなかった。
授業は魔法系列の話になっていた。魔法系列は最も主流である詠唱型と錬金術、魔方陣、陰陽師、悪魔召喚、タロットから成り立つ。
ただし、この系列には血族にしか伝わらないや自己開発した魔法なども当然存在するため、例外が存在する。
なんともつまらない授業の内容を律儀にまとめていたセイレーヌは、そういえば暇つぶしに新しい魔法を考える手があったことに思い至り、ノートの余白で遊び始めた。
こんなことができるのは、国王に匹敵する能力を持つ魔族や王宮に使える研究者でも怪しい。