1章:学校が始まった
2 王の死
こうした黒魔術師の襲撃は、魔族だけでなく人間にまで及んでいた。彼らは残虐の限りを尽くすことを至高としており、相手を魔族に限定していなかったのである。
自分たちの身の危険を感じた人間は、魔族と対抗するようになった。当然、人間には普通の魔族と黒魔術師の判別がついていない。
魔族の王ラクトスは平和を愛していたため、魔法という圧倒的な力を持ってして人間を殺し、屈服させることを禁止していた。故に、このような自体に陥っても、人間に手出しさせなかった。
魔族にも、「手を出してはならぬ。他を出せば我らも犯罪者同然。相手方が手を出したとて、それが手を出す理由になどならぬ。ましてや、魔術などと人にはない凶悪なり得る力を持って打つなど……。」と何度も話をしていた。
それだけでなく、黒魔術師を捌き、黒魔術師によって被害にあいそうになっている人間を守っていた。
その結果、魔族は一方的に人間によって裁判にかけられ、《魔女狩り》と呼ばれるものが横行した。時には火あぶりに、また時には水に沈められ、拷問の限りを尽くされた。魔力を持たぬただのヒトも、多くは見た目やあらぬ噂で血を流した。「魔女である」という恐れによって。
魔族だけでなく、人間の大量虐殺という、誰にも収集がつけられぬ事態に陥っていたのであった。
こうした事態を前に、ラクトスも異世界への移住を検討し始めた。魔族だけでなく、愛して止まない人間が死に至っている。その上、環境の破壊が進んでいる。
従来、魔族が魔法を提供する代わりに、日光の届きやすい場に住む人間から食料を提供することで共存していたことから、魔族は食料調達すら危うくなっていた。
王ラクトスの言いつけを守っていた魔族は困り果て、混乱が生まれ始めていた。
そこで王ラクトスは、魔術によって魔族を集め、国王としての言葉を述べた。
「私が宇宙の彼方にて、我らが住める世界を見つけた。今、我らは故郷をはなれ、移り住む時が来た。」
「ここで、大魔術による大人数テレポートを行い、新たな国を1から町を作り直そうと思う。しかし、私はここに残り、黒魔術師を全て裁かなければならない。皆の者、後は任せる。」
この言葉に、魔族はわずかに動揺した。しかし、王ラクトスは間髪入れずに言葉を続ける。
「とはいえ、この国から離れたくないものもいるであろう。強制はしない。賛同する者のみ、明日の明朝、この場に集まるが良い。」
一同は王の言葉を前に、言葉を失うばかりであった。
その翌日には、多くの人が集まった。この様子であれば、地球に残ると決意したものはわずかと言える。中には「自分も黒魔術師の討伐を支援する」と申し出る者がいたが、概ね王ラクトスの意に沿った形である。
王ラクトスを前に誰も言葉を発する者はなく、あたりは緊張の面持ちでむかえていた。
そんな中、王の重たい一言が発せられた。
「皆の決意、感謝する。これより、テレポートの儀式行う。」
通常のテレポートは一人で行うもの。どんなに有能な魔術師でも20から30人を運ぶのが限度である。しかし、今回ざっと見回しただけでも数千から数万人の魔術師がいる。その上、テレポート先が宇宙を越えると言う話だ。前代未聞の話に、魔族は改めて王の強さを実感した。
しかし、いくら王といえども、異世界転移には2時間の詠唱を要した。残りもわずかとなり、皆が磁力のような力で体が引っ張られるのを感じ始めた時、兵器を持った人間たちが姿を現した。
人間が魔族人口として把握していた数千から数万という魔族たちを前にして、一人詠唱を唱える魔族の姿を見て、人間は彼が魔王であることを確信した。
それを、確認するや否や、人間は狂乱したように歓喜した。そして、ただ磁力に引っ張られてなすがままとなっていた魔族たちを無視し、人間は持てる限りの力の限りで魔王に総攻撃を行なった。
魔族の王といえども、詠唱をしていればただの肉体。無防備な状態ではヒトとさして変わりはない。次第にその肉体には血が吹き出し、口からも血が流れ、見るに耐えない姿となっていた。
それでも王ラクトスは、詠唱を止めなかった。黒魔術師の討伐を申し出た魔族がいたことが、彼の心残りを無くしていたのである。ただ一つの気がかりといえば、可愛いセイレーヌの行く末を見守れぬこと。
「可愛い我が子、セイレーヌよ。最期まで共にいれぬ事、悲しく思うぞ。」
魔族が多く涙を流し、テレポートした時、彼は王としてではなく、この時初めて親としての立場をとり言葉を述べた。この言葉はラクトス王の最期の言葉として魔族に刻まれている。
余談であるが、魔族の奥はV字谷やU字谷、鍾乳洞の奥底などの、人間が立ち入れない場に住んでいた。
今となっては、V字谷やU字谷、鍾乳洞の奥底など、人間が立ち入れない場に住んでいた。人間とうまくやっていくために作り出された住み分けだ。
現人間界において、未だに魔族の情報が足りていないのはその所以である。もっとも、「魔女」という言葉が横行した結果、その言葉だけが残り、「薬草を作っているから職業は魔女。」など言っている輩もいるが。今のセイレーヌに知る由はない。