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人のいない世界で人を探しています、猫と一緒に

作者: 笹 塔五郎

 ザッ、ザッと地面を踏みしめながら、わたしは森の中を歩いていました。

 鬱蒼とした森の中は昼だというのに薄暗く、先の方まで様子をうかがうことができません。

 まったくもって困りものです。


「うーん、できれば日が沈むまでに森を抜けたいのですが……どう思います?」

「どうかニャ。そう言ってもう一週間近くは彷徨っている気がするニャ」


 わたしの問いかけに答えたのは、わたしの頭の上に鎮座する猫――《毛玉猫》という種族の魔物です。

 旅の途中で出会った子で、名前はミコさん。

 語尾に「ニャ」をつけるのが特徴なのと、ふわふわの白い毛玉が特徴です。

 そんなミコさんはわたしの頭に乗ったまま動こうとはしません。

 ここがザ・ベストポジションらしいです。


「ええ、もう一週間も経ちました?」

「オミャーは時間感覚がなさすぎるニャ」

「すみません、あまり気にしない方かもしれないです」


 ミコさんの言葉にわたしは謝るしかない。

 森の中に入って一週間も経っていたなんて……日が沈むまでとかそういうレベルではありませんでした。

 だとしても、早く森を抜けてしまった方がいいでしょう――


「あ、ミコさんミコさん! キノコ生えてますよ!」

「オミャーは森を抜ける気があるのかニャ?」

「だ、だってご飯は必要じゃないですか!」

「オミャーは食べたくても平気って言ってたニャ」

「一度ご飯の味を知ってしまったら戻れなくなってしまうんです……」


 そう、わたしはご飯を食べる必要がないんです。

 なぜなら《ゴーレム》だから。

 とてもシンプルな理由ですけど、わたしも人間ではなくて……魔物なんですね、はい。

 魔物と魔物のコンビで、こうして旅を続けているわけなんです。


「……というか、ミコさんも少しは手伝ってくださいよ。わたしばっかりに探せないで。猫なんですから!」

「にゃーん? 猫じゃなくて毛玉猫。毛玉猫は家猫より引きこもりだから本来森の中にいるもんじゃニャいの。精々家の中で毛玉を作るくらいが本来の役割だニャ」

「はいはい、分かりましたよ、もう」


 役立たず、というと怒るのでミコさんにそんなことは言いません。

 実際、ミコさんは役に立たないわけではないんです。

 狭い道とかで落石があった時に、ミコさんがいると頭に岩が落ちてきてもへっちゃらです。

 まあ、わたしもゴーレムなんで岩くらい当たっても平気なんですけど。


「今日も森は抜けられないかもしれないですね……」

「アタシは別に構わニャいんだけど、それじゃあご飯にするかニャ? お風呂にするかニャ? それとも、け、だ、ま?」

「ミコさんそのネタはまってるんですか? 毎日言ってますけど……」

「え、マジかニャ」


 気付いてなかった辺りに天然を感じます。

 まあ作られたゴーレムであるわたしと違ってミコさんは割と天然物で間違いはないんですけど。


「とにかく、今日は森を抜けますよ!」

「頑張るニャ」

「ミコさんも手伝ってくださいって!」

「毛玉に虫がつくから嫌ニャ」

「後で毛づくろいしてあげますからっ」

「というか、オミャーならジャンプで木を飛び越えて先を確認できるんじゃないかニャ?」

「……!? ミコさん、どうして早くそれを言ってくれないんですか」

「オミャーは色々抜けすぎニャ」


 そうでした。

 ゴーレムであるわたしは人間に比べて高い身体能力を誇ります。

 なので、ジャンプして木を飛び越えるくらい余裕なのでした。

 そういうことで――よいしょっと!


「う、わっ!」


 木の枝が身体に絡まりつつも、何とか枝を突き抜けて、青空が視界に広がります。

 その先――広がる緑色の木々たちの先に、目的のものがありました。


「あ……」


 滞空時間はほんの少ししかなくて、わたしの身体はそのまま地面に落下していきます。


「よっと、ミコさん。見ましたか!? あれ?」

「ここニャ。木に引っかかってるニャ」

「あ、すみません……。よっと」


 もう一度ジャンプして、木に引っかかったままのミコさんを回収します。

 毛玉なので、枝には引っかかりやすいみたいです。

 それよりも――


「ミコさん! さっきの見ました? 町ですよ、町!」

「一週間ぶりに見たニャ!」

「ですよね。すごく綺麗な感じでした。誰かいるかもしれませんよ!」

「オミャーはいつまでもそういうことばかり期待するんだニャ」

「それはそうですよ。だって、わたしを作ってくれた人には会えなかったとしても、人間には会ってみたいじゃないですか」


 わたしの目線で捉えたのは、植物の蔓や蔦で覆われた大きな町。

 綺麗に形は残っているけれど、ほとんど自然に侵食されてしまった光景でした。

 それはとても幻想的で、綺麗だけれど――きっとわたしの目的の場所ではないのです。

 わたしが目覚めて旅を始めてから、まだ人間に出会ったことはないのですから。


「まあ、ひょっとしたら隠れ住んでいるかもしれないニャ。人間も昔は多くいたらしいからニャ」

「そう、ですよね。ですよね! そうと決まれば、急いで向かいましょう!」


 わたしはミコさんを頭に乗せて駆け出します。

 人のいなくなってしまった世界で、わたしの人を探す旅はまだまだ続いているのです。

終末世界の旅物とかも書いてみたいと思ったのでお試しに。

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