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演劇の見られる喫茶店  作者: しみずけんじ
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第四幕



天国のお父さんへ


 拝啓 お元気ですか? ……っていつも書いてるけど、亡くなってるから元気も何もないんかな? 天国での暮らしにはもう慣れましたか? おかげさまで、わたしもお母さんも優也も、けがも病気もなく、毎日元気に暮らしています。今日は報告せなあかんことがあってお手紙を書きました。

 実はわたし、劇団おとぎの花園っていう劇団に入ることになったんです! 劇団って言っても、わたしを入れて5人の小さな劇団なんやけど、みんなとってもいい人ばっかりで、喫茶石切堂って言う喫茶店で、毎月1回、色んなおとぎ話をもとにした演劇をするのが主な活動みたいです。お芝居は昔から苦手で、幼稚園のお遊戯会でも木の役とか何も話さへん役ばっかりやったし、中学の文化祭でも裏方ばっかりやったから、今回も女優さんができるかどうかわかれへんけど、シンデレラみたいなお姫様になりたいなぁって思ったから、勇気を出して、劇団に入れてもらうことにしました。お父さん、昔、よく一緒にシンデレラを読んだん覚えてる? わたし、ずっと忘れてた。けど、そのことを思い出したから、お姫様になるのが夢やったんやってことも思い出してん。なあ、わたし、お姫様になれるかなぁ? そういえば、なんであの時、『周りの人をいつも大事にしてたらなれる』って言ったん? わたし、小さかったからなんも気にしてなかったなぁ。理由、聞きたいなぁ。

 あっ、そうや、劇団のみんなのこと紹介するね。

 まず今里可憐ちゃん。わたしとおんなじ高校2年生。どこの高校かはまだ聞けてへんけど、すっごくカワイイ子! わたしを劇団に誘ってくれたんも可憐ちゃんやってんで。とにかく元気で明るくて、この前も突然抱きつかれて、わたし、どうしたらええんか分からへんかったわ。ホンマにわたしとは正反対の女の子。なんでわたしなんかを誘ってくれたんやろ? あっ、それでな、可憐ちゃん、わたしの初めての友だちになってくれてん! めっちゃうれしかったなぁ。それにな、わたしのことカワイイって言ってくれてんで! わたし、お母さんやお父さん以外にそんなん言われたことなかったから、ちょっと恥ずかしかったけど、すごくうれしかった。でも、可憐ちゃんって舞台の上に立ったらまるで別人で、昨日見て来た白雪姫でもホンマにすごかったなぁ。あんな子と一緒に、わたし舞台に立てんのかなぁ? なんか不安やわ。

 次は枚岡作菜さん。劇団の団長さんで、キレイとかカワイイとかっていうより、カッコよくて頼りになるお姉さん。舞台でも王子様役が多くって、見に来てる小っちゃい子たちのお母さんたちからも大人気やねんで。やさしくて、でも時々きびしくて、面白くて頼りになって、めっちゃそんけいできる人です。あっ、でもな、可憐ちゃんにはいっつもお局って呼ばれてんねん。そしたら作菜さんがいっつも『誰がお局様やっ!』ってツッコんでな、可憐ちゃんが『様は言ってへん!』って返して、そのやり取り見てるといっつも笑ってしまうねん。

 次は小阪明さん。おっとりとしたとってもやさしいキレイなお姉さん。でも劇団の副団長さんやねんて。とっても器用で、毎回劇の衣装とか小道具とか、みんな明さんが作ってるみたい。あんなお姉さんおったらええなぁって思います。劇が無い時は、作菜さんと2人で喫茶店を手伝ってて、お2人とも住み込みで働いてるみたい。そう言えば、作菜さんは石切さんのことおっちゃんって呼んでたけど、親せきかなんかなんかなぁ? あっ、言い忘れてたけど、わたしも喫茶石切堂で働かせてもらうことになりました。そしたら今までのバイトをやめて劇団に入っても、バイト代稼げるやろって、みなさんの心遣いで。わたし、それで劇団に入る決心ができてん。ホンマにやさしい人ばっかりです。

 最後は布施七海ちゃん。まだあんまし話したことないねんけど、いっつもおっきなブタのぬいぐるみを抱いてる静かな女の子。けど、舞台に立ってる時の七海ちゃんは、1人で何役も演じ分けて、可憐ちゃんに負けへんくらい、すっごくすっごくすごい子やねんで。でもなんでいっつも着ぐるみ着たり、濃いいメイクしてんのかなぁ? 恥ずかしがりなんかなぁ? わたしや可憐ちゃんとおんなじ高校2年生やねんけど、もっといっぱい話して、早く仲良くなりたいなぁ。これまでずっと友だちって呼べる子1人もおらんかったのに、こんな風に思えるようになってすっごく幸せ。携帯の電話帳も増えてんで。めっちゃうれしい!

 劇団の人はこれで全部やねんけど、あともう1人、石切堂のマスターさんを紹介するね。メガネをかけたとってもやさしい男の人で、50歳くらいかな? はじめてわたしがお店に行ったときにチーズケーキをごちそうしてくれてん! しかもお母さんと優也の分もわがまま言ったら、タッパーに入れて持ち帰りさせてくれて、ホンマにうれしかったなぁ。すごく丁寧な人で、ちょっと涙もろいところもあるみたい。

 わたしはこんなステキな人たちに囲まれて、とっても幸せです。お母さんも、劇団に入るって言ったらすっごく喜んでくれて、応援してくれて、優也も、優也には迷惑かけちゃうし、優也をいつも夜遅くまで1人ぼっちにするのはホンマに不安やけど、『大丈夫や』って言ってくれて、わたし、ホンマに家族に支えられてるなぁって思った。お父さん、こんなにステキな家族を作ってくれて、ホンマにホンマにありがとう! わたし、中途半端な気持ちで絶対に演劇せんとこうって思うし、応援してくれるみんなのためにも頑張ろうって思います!

 結局、4月は前のバイトの引継ぎとかがあって劇団に参加出来へんかったけど、いよいよ明日から石切堂さんのバイトと、劇団の練習が始まります。ああ~、6月の公演にはわたしも参加してるなんて想像も出来へんわぁ。緊張する~。

 あっ、お母さんが呼んでるわ。今日は何の日か覚えてる? 5月6日。優也のお誕生日です。今年で優也も11歳になりました。もう小学5年生やで。お父さんが生きてた頃はまだ3歳ぐらいやったもんね。今ではすっかり生意気になって、でもホンマはやさしくて、だいすきな弟です。あんなカワイイ弟を残してくれてありがとうな。そうそう、今日はわたしの劇団への入団記念もかねてって、お母さん、ケーキも料理も奮発してくれてんで。そんなんしてくれんでもええのになぁ。あっ、そろそろお母さんのお手伝いせな。じゃあ、またなんかあったらお手紙書くね。まあ、わざわざお手紙書かんでも、天国からやったらみんな見えてるかもやけど。


敬具

姫子より


追伸 お盆くらいは帰って来てな。お母さんも優也も待ってんで。あっ、でも、幽霊やからって怖がらせるのは無しやでっ!



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