第二十四幕
姫子が喫茶石切堂を去ってから1ヵ月が過ぎていました。
後に『姫子ショック』と呼ばれるこの出来事で、可憐はすっかり魂の抜けた抜け殻のようになってしまい、劇団おとぎの花園1月公演は結局中止、2月公演の見通しもまったく立っていない状況でした。
作菜の団旗作成も手が進まないようで、夜の石切堂店内には作菜のため息が響いていました。
「はぁ~……どうしたもんかなぁ」
「お姉ちゃん、ここ教えてくれへん?」
奏が教科書を持って自室から出てきました。
「まだ勉強してたんか? どれどれ……これ英語?」
「なんでやねん。どう見たって算数やろ」
作菜は国語には自信がありましたが、算数の方はてんでダメで、奏の今やっている小学3年生レベルの算数の問題ですら解けませんでした。
「……アカン、頭痛くなってきた」
「はぁ~……もういい。あとで結衣ネエに聞くから」
奏はこのように、最近学校に行けなくなった時期からの勉強を日々地道に、作菜や結衣たちの力も借りて、行うようになっていました。
「あ……でも、結衣ネエも今大変らしいで。例の新メニュー作りで」
作菜の言う通り、結衣は最近、マスターに提案された新メニュー作りを毎晩していました。とは言っても、どうにも料理が苦手な結衣は、今夜も大声を上げながら、まずはマスターに果物などの切り方から習っていました。ちなみに今もプライベートキッチンの方からは、「せやからこっちの手は卵みたいにして添えてやな……ああ、ホンマに危なっかしくて見てられへんなぁ」「もう、お父ちゃんうるさい。気が散るから黙ってて!」などという会話が響いていました。
「……分かってる。せやから『あとで』聞きに行くねん。結衣ネエ、『算数は』得意やから」
奏はため息を零したあと、壁に掛けられた真っ白な団旗に目を移しました。
「相変わらず思い浮かばへんの? 旗のデザイン」
「ん……まあ。最近いろいろあったからな。可憐も、今もまだあのざまやし」
作菜は2階を指さしたあとで、困ったように笑いました。
「劇団おとぎの花園立ち上げ以来最大のピンチってやつやな。2月公演もどうなるか分からへんし……」
「笑ってる場合か……」
「姫が入団してたったの1年。こんなにあの子がこの劇団にとって大きな存在やったなんてな……」
「……大きかった、ホンマに……」
そうつぶやいた奏は、手に持っていた教科書に目を落としました。
「お節介で、しつこくて……でも、わたし……姫子がいたから、こうやって普通にお姉ちゃんと話せるようになった。姫子がいたから、劇団にも入ることが出来た……せやのに……」
「奏……」
「明さんの時とおんなじや……。わたしには、何も出来へんのかな……?」
笑っている奏の目からは涙が零れ、教科書の上にポタポタと落ちていました。
作菜は奏の頭をやさしく撫でました。奏はそんな作菜に抱きつき、作菜もそれを何も言わずに受け止めました。
同じ頃、2階にも姫子のことで落ち込んでいる女の子がいました。今日も、合宿中でもないのに部屋の隅っこで布団にくるまっている少女・可憐です。可憐は姫子が劇団を去って以来、すっかり気力を失ってしまい、なんとか学校には通っていましたが、家にも帰らず、ずっと石切堂の2階で布団にくるまっては、しょっちゅう泣いていました。1人になるのが怖かったのでしょう。作菜たちは何も言わずにそれを受け入れ、心配した七海も、この1か月間ずっと可憐と一緒に店に泊まっていました。
「……これ、もう作らへんの?」
七海が作りかけのシンデレラのドレスの布を手に取って、尋ねました。
「……もう作ったって意味ないし」
布団の隙間から可憐の声が聞こえました。
「……じゃあ、もう捨てるん?」
「………分からへん」
七海は一つため息をついて、ドレス用のサテン生地を畳み始めました。
「……わたしさ」
また布団の隙間から声がしました。
「あの時……姫子が劇団に入る時、なんかあったら力になるって言ったのに……結局、何も出来へんかった……。お姉ちゃんと仲直り出来たんやって、姫子のおかげやのに……せやのに……」
可憐はむくっと起き上がり、窓から夜空を見上げました。
「ほんの1ヵ月前までは、一緒に夜空を見上げてたな……」
可憐の目から、涙が幾筋も頬を伝っていきました。
「……会いたいな、姫子に……また、一緒に……」
七海は何も言わずに、ただ桜色のサテン生地を丁寧に畳んでいました。
可憐が見上げていた夜空とおなじ空を、姫子は自宅の部屋の窓から見上げていました。――今頃、可憐ちゃんたち何やってんのかな? やっぱり、1月公演が中止になったんって、わたしのせいやんな……。迷惑、かけちゃったな……。可憐ちゃん……元気かな。
姫子は夜空から手持ちバッグに目を落としました。その中にはまだ、『シンデレラ』の台本が入ったままになっていました。姫子は台本を手に取り、少しパラパラっと懐かしむようにページをめくったあとで、首を横に振り、それを片づけて、机の上に広げられた学校の宿題に戻りました。
「なあ、姉ちゃん」
ふいに、カーテンで隔てられた優也の部屋から声がしました。
「ホンマに……もう演劇せえへんの?」
まるで今しがたの姫子の行動を見ていたかのような優也の言葉に、姫子は少しドキッとして振り返りました。
「な、何? いきなり……」
「せやかて、せっかく主演にも選ばれたのにさ……」
「……よう言うわ。月とスッポンとか言ってたくせに」
「それは……けど、お母さんやって、あれ以来、機嫌悪いしさ……」
「……お母さんやって、いつか分かってくれる。わたしは……わたしには、こういう生き方しか出来へんねん。……ゴメンな、わたしとお母さんの間で、優也には肩身の狭い思いさせて」
「……俺の方こそ、ゴメン。まだ小学生で……」
「優也……」
「じゃあ、寝るわ……」
「うん……」
姫子は部屋の明りを消し、小さなスタンドライトの明りを付けました。
しばらく姫子が静かに宿題をしていると、お母さんが帰って来ました。姫子はいつものようにお母さんの夕食の準備を始めましたが、お互いに会話はありませんでした。優也の言っていた通り、姫子が劇団を辞めて以来、お母さんはずっと機嫌が悪いままでした。
「いただきます……」
小さく言って食事を始めたお母さんの前に、姫子も腰掛けました。姫子はしばらく話し辛そうにしたあとで、意を決し、重たい口を開きました。
「あ、あのさ……わたし、そんなに悪いことした?」
お母さんは少しぴくっとしましたが、食事を続けたまま答えました。
「……いいや。あんたは悪いことなんかしてへん。昔からずっと、わたしたちのために頑張ってくれるええ子や」
「……じゃあ、なんでずっと怒ってんの? 優也やって心配してんねんで?」
「あんたは悪いことはしてへん。せやけど……わたしはあんたを許されへん」
「なんでなん……? わたしはただ……」
お母さんはお箸をおいて、姫子を見すえました。
「大吉さん、出しなさい」
「! そ、それは……」
姫子は言葉を詰まらせて、目をキョロキョロとさせました。
「捨てたん?」
お母さんが聞くと、姫子は小さくうなずきました。
「なんでそんなことするの? わたしは、姫子や優也が幸せやったら、わたしは不幸になってもええって言うたやろ?」
「でも……!」
「わたし……ずっと悔しかってん」
「え……?」
「お父さんが亡くなってから、姫子が自分のやりたいこともせず、見つけようともせず、友だちも作らんと、わたしたち家族のために頑張ってくれてたことが。もちろんうれしかった。けど、もしお父さんが居ったらって……そう思ったら、自分がふがいなくて……」
お母さんは棚の上に飾られたお父さんの写真を見ながら、悲しそうに言いました。
「お母さん……」
お母さんはもう一度姫子を見すえて、今度はうれしそうに言いました。
「そんな姫子が、劇団に入って、石切堂さんで働かせてもらうようになって、友だちも出来て……いつも幸せそうにしてる姫子を見てて、ホンマに良かったなって思った。せやから、少しぐらい仕事増やしてでも、姫子にずっと続けさせてあげたいなって思ったんや。せやのに……たかがわたしが倒れたぐらいで、姫子が劇団もバイトも辞めて……わたしには、それが許されへんかった」
「……たかがとちゃうよ……!」
「え……?」
「今回は大丈夫やったけど、もしまた倒れて、今度も大丈夫やって言えんの? それやのに……たかが倒れたぐらい、とちゃうよ!」
姫子はバンッとテーブルを叩いて立ち上がると、部屋へと走っていきました。
「姫子っ!」
お母さんが追いかけると、姫子は薄暗闇の中で答えました。
「わたしはっ! ……自分がしたくてやってきたことやねん。わたしが、家族のために頑張りたいねん!」
「姫子……」
暗闇の中で涙を零す姫子に、お母さんはやさしく微笑みました。
「……あんたはホンマに、わたしにはもったいないぐらいええ子や。せやけどもし、わたしのわがままを一つだけ聞いてくれるんやったら、家族のためじゃなくて、自分のために生きなさい。それが、お母さんの心からの幸せや」
「……自分の、ために……?」
お母さんはうなずき、続けました。
「そしてこれだけは忘れんといて。どんなことがあっても家族の縁は切れたりせえへん。けど、友だちとの縁は違う。放っといたら、簡単に切れてしまうねんよ」
お母さんはそれだけ言って、食卓へと戻って行きました。
姫子はその場にしゃがみ込み、暗闇の中で、また『シンデレラ』の台本を手に取りました。――わたしやって、続けたかった。でも……。台本を抱きしめてすすり泣く姫子の声は、カーテンの向こうで布団に入る優也の耳にも聞こえていました。
それから数日が経ったある日、喫茶石切堂では小さな事件が起こっていました。七夕やクリスマスにも店に来ていたいつかの少女が、いつまで経っても姫子が店に帰って来ないことにべそをかいて、作菜たちを困らせていたのです。
「なあ、いつになったら姫子ちゃん帰って来るん? もう、劇はせえへんの?」
「あー……えっと~……」
次の公演の見通しも未だに立たず、姫子が店を辞めたということも言い出せず、作菜は困り果てていました。
「せっかくママと一緒にチョコ作ったのに……」
少女は小さな赤い箱を手に持っていました。一緒に来ていた少女の母親によると、姫子のためにバレンタインのチョコを一生懸命に作って持ってきたようです。
「貸して」
そう言って少女に手を伸ばしたのは、人見知りのはずの奏でした。
「奏っ!? あんた……」
驚く作菜に構わず、奏は少女にやさしく微笑みました。
「姫子に渡しとく。せやから、もう泣かんといて」
「ホンマに? 姫子ちゃん、もう帰って来る?」
「それは……分からへん。けど……これ見たら、喜ぶと思う」
奏が微笑むと、少女は小さくうなずき、母親と一緒にケーキを食べたあとは、笑顔で帰っていきました。
少女たちが帰ったあとも作菜は終始驚いていましたが、奏は預かったチョコを七海に託してこう言いました。
「これ、可憐さんに渡して。……姫子にこれを渡せるんは、可憐さんだけやから」
七海は奏からチョコを受け取り、2階へと上がりました。
「可憐」
七海が呼ぶと、部屋の隅っこにあった布団のふくらみが、返事をするようにモゴモゴっと動きました。
「これ、姫子に渡してきて」
「……え?」
布団に空洞が出来、そこから声が聞こえました。
「……何、それ?」
「お客さんの女の子が、姫子に、ってくれてん。ほら、もうちょっとしたら、バレンタインやろ?」
「……嫌や」
可憐はまた布団にくるまってしまいました。
「そんなん言わんと。姫子の家知ってんの可憐だけやろ?」
「……せやけど……」
「……会いたいんちゃうん? 姫子に」
「……会いたい。けど、会ったって、姫子は帰ってこうへんねんやったら、辛いだけや……。それに、わたしこの前、姫子にまたひどいこと言うてしもうたから……大嫌いとか、嘘つきとか……」
「……じゃあ、ポストに入れるとか、家族の人に渡すでもええから、とにかく姫子の家まで持って行って。これ、預かってしもうてんから」
七海はチョコの入った赤い箱を可憐の布団の前に置きました。
「……姫子の力になるんやろ?」
小さく言って、七海は1階へと降りていきました。
七海が下に行くと、可憐はむくっと布団から出てきて、チョコの箱を手に取りました。可憐は少し考えたあと、上着を着て、箱を持って部屋を出て行きました。
「いってらっしゃい、可憐」
1階へ降りてきた可憐に七海が言うと、可憐は小さく「行ってきます……」と言って出て行きました。
「……わたし、姫子の役に、ちょっとは立てたかな……?」
一緒に可憐を見送っていた奏がつぶやきました。
「立てたんちゃうか?」
作菜が隣で奏の頭をポンポンと叩きました。
「よう頑張ったよ、奏は。……なんか、忙しくなりそうな気がするな」
そう予感した作菜は嬉しそうに笑いました。
カウンターでは、結衣が手をパチンッと一つ叩きました。
「よっしゃ、わたしも張り切って、映える新メニュー考えなな。……もしあの子が戻ってきたら、時給上げたらなアカンからな」
「せやなぁ……じゃあ、今日もまずは果物の切り方の練習からや」
「え~……もう飽きたぁ」
マスターの言葉に肩を落としながらも、結衣はマスターと一緒にプライベートキッチンへと下がって行きました。
そんな光景を、作菜と奏は笑って見ていました。
そして七海は、「頼んだで、可憐」と、小さくつぶやきながら、ずっと可憐の去った玄関を見ていました。
この頃、姫子は学校が終わると、以前のようにアルバイトに勤しんでいました。今日も、夕方からコンビニのアルバイトに入り、現在は店の中に並べられたバレンタイン用のチョコの整列をしているところでした。そこに、背後から小さな声がしました。
「あ、あの……」
「あ、はいっ」
と、姫子が振り返ると、そこには可憐が立っていました。
「可憐ちゃん……」
「ひ、ひさしぶりやな……」
可憐が微かに笑うと、姫子も微笑しました。
「うん……」
1ヵ月ぶりの再会に、2人は少しよそよそしさがありましたが、姫子が休憩をもらい、2人はコンビニの外で話をすることになりました。先に外で待っていた可憐のもとに、上着を着て、2本のホット用ペットボトルを持った姫子がやって来ました。
「カフェ・オ・レで良かったかな?」
「ありがとう……あ、財布忘れた……」
「ええよ。せっかく来てくれたんやし」
姫子がやさしく笑うと、可憐はホットカフェ・オ・レを受け取って、一口含みました。姫子も一口含んだあと、話を切り出しました。
「でも、よくここに居るって分かったね?」
「優也に聞いて……」
「あ、そっか……それで、今日はどうしたん? 稽古は?」
可憐は2つ目の質問には答えずに、ポッケの中から小さな赤い箱を取り出しました。
「これ……お客さんの女の子が姫子にって。バレンタインのチョコ」
「へ? わ、わたしに……?」
姫子は驚きと喜びが入り混じったような顔で、「どの子やろ?」と首をかしげながらチョコを受け取りました。姫子が早速箱を開けると、中には――とても似ているとは言えませんが――、姫子の顔のチョコが入っていました。
「わぁ~、可愛い~……こんなんもったいなくて食べられへんなぁ。それに、こんなんもらったん初めてや♪ ありがとう、可憐ちゃん。持ってきてくれて」
「うん……よかった、力になれて」
可憐はうれしそうに姫子のよろこんだ顔を見ていました。けれど、すぐに表情を曇らせました。
「じゃあ……わたし、帰るわ。今日はそれ、渡しにきただけやから……元気でな」
「え……あ、うん……ホンマにありがとう。わざわざ持ってきてくれて……」
「うん……」
そう言って、別れの言葉を並べても、2人はなかなか動くことが出来ませんでした。可憐は、思い出したように口を開きました。
「あ、あの……!」
「何……?」
「こ、この間は、ゴメン! 大嫌いとか、嘘つきとか言うて……」
可憐が頭を下げると、姫子は首を勢いよく横に振りました。
「謝らんでええよ。……嘘つきは、ホンマのことやし……。あ……そういえば、1月公演中止になっちゃってんな。わたしのせいやんな……。みなさんに謝ってといてくれる?」
「…………」
可憐は頭を上げましたが、うつむいたまま何も答えませんでした。
「可憐ちゃん……?」
何も言わない可憐の顔を、姫子は首をかしげながら覗き込みました。
「どうしたん?」
「…………嫌や」
「へ……?」
姫子が答えるか否か、可憐は姫子に抱きつきました。可憐の手に持っていたペットボトルは地面に落ち、カフェ・オ・レがコンクリートの上に零れ落ちていました。
「ちょっと、可憐ちゃん……?」
「やっぱり嫌や! このまま、また姫子と別れるなんて……」
「可憐ちゃん……」
「やっぱりチョコ……優也に預けとけばよかった……」
「可憐ちゃん……」
「……帰ってきて……お願いやから、帰ってきて……わたしたちのところに帰ってきて」
涙を流しながら訴える可憐に、姫子は油断すればうなずいてしまいそうになるのをグッとこらえて、首を横に振りました。
「……そんなん、出来へんよ。前にも言うたけど、わたしはもう演劇を――」
「今は、楽しめんでもええよ」
可憐は姫子の言葉を遮ったあと、姫子の肩を持って、姫子の目を見つめました。
「でも……自分を犠牲にするんは、なんかちゃうよ。姫子は……お姉ちゃんと一緒や」
「え……?」
「家族のために自分を犠牲にして……でも、そんなんされたって、家族は全然うれしくないねん。……優也やって、今の姫子を見てるんは辛いって言ってた」
「優也が……?」
「家族がホンマに願ってるんは、姫子が自分のために生きることなんや!」
「!」
姫子は可憐に、お母さんに言われたことと同じことを言われて、ハッとなりました。
「姫子……わたしは、ずっと姫子と一緒に演劇がしたい。また一緒に夜空を見上げたい。クリスマスパーティーをしたい。一緒にご飯を食べたい。一緒に笑いたい。一緒に泣きたい。一緒に怒りたい。一緒に……たくさんのことがしたい。……姫子は? 姫子は、何がしたいん?」
「わたしは……」
ポロポロと涙を流す可憐につられて、姫子も涙が零れました。
「わたしやって……ホンマはそうしたい……ずっとずっと可憐ちゃんと、みんなと、一緒に笑っていたい……けど……怖いねん……家族がいなくなるんが……せやから、わたしは……」
可憐は、涙を流す姫子を、今度は抱きしめました。
「ゴメンな……一人で辛い思いさせて……今度こそ、力になるから。姫子はもう、一人じゃないから。せやから、姫子はもう自分のために生きてもええねんで」
「自分の、ために……?」
姫子はまるで解放されたように止めどなく涙を零し続けました。釣られて可憐も涙を流し続けたもんですから、コンビニの前には小さな水たまりが出来ていました。そして、可憐が落としたペットボトルのカフェ・オ・レも、冬の風に当てられて、すっかり湯気を失っていました。
この後、姫子はお母さんや優也、新しく始めたバイト先、そして作菜たち喫茶石切堂の面々に何度も頭を下げ、無事に劇団おとぎの花園に再入団させてもらいました。
そして、2週間が経ちました……。
さてさて、どうやら姫子は無事に喫茶石切堂に、劇団おとぎの花園に戻ることが出来たようですね。本当にめでたしめでたしです。
さあ、ここからは大団円の幕開けです。
いよいよ、1カ月遅れの、姫子にとって初めての主演舞台が幕を上げるようですよ。
ですが! それはまた、最終幕でお話しするといたしましょう。では!




