ミツルギ・ジン
あらすじが殆どネタバレです笑
この世界の人間は二通りある。魔法を使うことのできる人間とできない人間だ。
この物語は、そんな世界で生きるある一人の少年の生涯を綴ったものである。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
「ぎゃぁぁぁぁぁぁぁあ!?」
早朝、首都フィールゲンにあるケンドリック魔術学院の男子寮の309号室でそんな叫び声が聞こえた。
その部屋は、思わず目を背けたくなるような部屋だった。床は放置された衣服や下着類、食べかけのお菓子、飲みかけのお茶が入ったコップ、さらには何やらよく分からないような物体などで足の踏み場があるかどうか不明で、ベッドの上は本が少し揺らしただけで崩れてしまいそうな状態で積まれており、面積の半分を奪っている。所謂典型的な片付けられない人の部屋である。
入寮して僅か1週間でこの状態。現在はそこから2週間たっているのである。そうなれば必然的にヤツはでる。世界で忌み嫌われるあの生物が・・・。
今まである程度充実していた孤児院で集団生活をしていた彼にとってヤツとの邂逅はこれが初めてだった。
「こ、これが噂に聞くじ、G!?」
彼、ミツルギ・ジンは、その初めて生理的嫌悪をもたせる黒光りのフォルムを見て驚きと恐怖でパニックを起こした。
「どどど、どうする?、とにかくこの部屋ごとぶっ飛ばして・・・」
対応の仕方が全く思いつかないジンは、どこか常識外れな結論を出しかけていた。そこへ
「とりあえず落ち着きな、相棒」
と、壁に立てかけられている刀の方から独特なダミ声が聞こえてきた。
「落ち着けって言われても初めて見る生き物なんだよ。怖いじゃないか」
ジンは立てかけられている刀に向かって言葉をかけた。傍から見ればおかしな光景だが、この世界には喋る刀が存在するのである。
「俺様の相棒たるお前がGごときに恐れをなしてどうすんだよ。あぁ?」
刀はやけに高圧的な態度でジンと話す。
「ごめん、サクラ。でもどうすればいいの?」
喋る刀にも名前がある。ただ、あまりにも似つかわしく無い名前である。この名前は別にジンがつけた訳では無い。元々あった名前だそうだ。ジンの家系、ミツルギ一族は代々この刀を家宝として大切にしてきた。なんでも、ミツルギ一族を繁栄させた初代当主ミツルギ・ラクザンと共に数々の死線をくぐり抜けてきたらしい。12年前に何者かによって集落を攻め落とされ、両親が刀と一緒に川に流して逃げのびたジンにとってサクラは、なんでも打ち明けられる大切な親友のような存在であった。
「はぁー、こんなチンケな虫けらに使われるような俺様じゃないんだが、仕方ねぇな」
手と頭があれば手で頭をガシガシしている姿が見えるような口調でジンの手の中へと移動した。瞬間移動である。
ジンは手にしたサクラをGに向けて横薙ぎに払った。そして、その風圧だけで塵と化したGに心の中で手を合わせたジンはベッドの上サクラを置き、部屋を出た。そろそろ朝食の時間になるのである。
その際、ベッドに置き去りにされたサクラは
「これを機に生活改めねぇかなぁ・・・」
と、独り言ちるのだった。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
男子寮の食堂には、ちらほらと生徒が来ていた。
朝食と夕食のメニューは毎日決まっている。
「毎食肉を食えば最強の魔術師も夢じゃない!」
とは学園長の弁である。したがって、今日も今日とて朝からガッツリのステーキ定食を食べる。
怖いもので、人間3日続けば慣れるのか胃もたれする生徒は存在しない。むしろ、喜び勇んで喰らい付いているぐらいである。
しかし、ジンは元より少食で野菜だけでも生きていける程なので毎朝ステーキを食べるのは苦痛で週に3日は吐く。
「はぁ、今日もステーキか・・・」
空いていた席に腰掛けながらジンがボヤいていると、
「今日も辛気臭い面しとんなぁ、そんな肉食うの嫌け?」
と、サンカイ地方独特の方言で話す背の高い男がジンに話しかけてきた。
「おはよう、ローレス」
ローレスと呼ばれた男はジンの隣の席に腰掛けてきた。
身長は180cmほどでやや痩せている。しかし、ガリガリといった感じではなく細マッチョといった感じだ。髪は青みがかった黒で、短く切りそろえられている。目は切れ長、少し高い鼻、女性が見れば100人に90人は振り返る美丈夫だ。
「おう、おはよ」
ローレスは短くそう返すと早速食卓に持っていた一人分の朝食を置き一言いただきますと言って食べはじめた。
「朝からよくそんな食べれるよね」
ジンは他の人よりも3倍ほど盛られた朝食を見てそう漏らした。食事は最低限のものさえ取れば注文は自由なのである。ただ、ジンは最低限のものさえも危ないので心の底から隣のローレスを尊敬するのだった。
「僕もご飯貰ってくるから、席見ておいてくれる?」
「いいで、はよもらってき」
ジンはローレスから許可を貰うとこの後待っている胃もたれとの勝負に憂鬱になりながら席を立つのだった。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
「いやぁー、食った食った!」
ローレスはあれから米を後3杯おかわりしペロリと平らげた。まったくその細身のどこに入っているのかジンには不思議でならなかった。ちなみにジンはしっかり胃もたれになった。
食事の面でとても苦労はしているもののジンはこの学校生活が割と好きだった。まだ3週間しか経ってはいないが、それなりに仲の良い学友や質の良い授業、学院自体の過ごしやすさはとても楽しく感じられた。
しかし、今日の一限目でその楽しい日々がぶち壊された。
一限目は魔法技術の授業だった。
「もう、3週間たってだいぶ生活にもなれただろう。そろそろ実技の授業に入りたいと思う」
担当の先生の言葉に生徒は沸き立った。今までもそれなりに楽しい授業内容ではあったし、退屈になるような授業も存在しなかった。しかし、やはり座学だけでは思春期真っ盛りの子供たちには飽きというものがあり、刺激が欲しかったのである。
「おいおい、嬉しいのは分かるがはしゃぎすぎだ。実技と言っても今日はまず、自分の適性を知ることからだ。」
魔術学院と言うだけあって、もちろん生徒のすべてが魔力をもつ魔術師だ。しかし、この国では学校に通い使い方を習うまでは魔法を使ってはならないという法律があった。なので、生徒が知っているのは自分の魔力量だけなのだ。
「お前らもこの前習ったから知ってるよな?魔力は基本的に火、水、風、雷、土の五つに変換できる。そして、適性というのはその五つのうちどれに変換させやすいのかを示すんだ。一般的には2種類、多くて3種類だな。伝説と呼ばれる人物等は5種類全てを苦もなく変換させることが出来るらしいがそれはまぁ、別格ということだろう。まぁ、おさらいはここまでだ。早速適性を確認するぞ、今から配る紙に魔力を流し込め。火なら赤、水なら青、風なら緑、雷なら黄、土なら橙だ。複数の場合は黒板に書いてある色になる。わかったな?」
先生は長い説明を終えると満足したのかドヤ顔でふんぞり返っていた。少々ムカついた生徒もいたが、そこまで気にならず各々早く紙配れといった表情でうずうずしていた。
配られた後は教室中に様々な声が聞こえた。
「うぉぉぉぉお、俺適性3つだったぜぇぇぇえ!!」
「あぁー、2種類かぁ」
「やった!この属性がよかったんだよ!!」
皆一喜一憂しながら自分の結果を吟味している。
「ミッチー、お前どやったん?俺4種類やったわ凄ない??」
ローレスは興奮して声を大きくしながらジンに聞いた。しかし、ジンの顔が少し落ち込んでたのを見て少し冷静になり、
「もしかして1種類とか、あんま嬉しない属性とかやった?それやったらすまん!デリカシーないこと聞いてもたわ・・・」
と、フォローしようとした。それに対しジンはゆらっと顔を上げローレスに魔法陣を力なく見せた。
「僕、適性属性ゼロだってさ」
どうだったでしょうか?
ありきたりな感じですが楽しく書いていきます。
今後ともよろしくお願いします。