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僕が飼い猫になる

「猫様、この度は我が娘を助けて下さり誠にありがとうございます!!!」

「おい、猫!妹を助けてくれて本当にありがとな!なんか食べたいものあるか!?」

「猫さん猫さん、スーパージャンプ見せてぇ~」


 リーガル侯爵家―――エリーの家に迎えられた僕は非常に驚いていた。エリーの父親、兄、妹の順で本当に猫に話しかけてきている。自分が弟から「猫に助けられた」と言われたら弟に熱でもでたんじゃないかとまず疑うだろう。でもこの家族は娘の言葉を疑う素振りすらない。この様子をエリーはにこにこと見守っていた。


 とりあえず色々な食べ物が食卓に並んでいるのには思わずよだれが出そうになる。なにせ半日程なにも食べていない。手前側のキャットフードには目もくれず奥に置いてある肉や魚を次々と食べていく。


「おぉー、猫様は美食なんだなぁ。人と同じような食べ物を好むとは」

「ならこっちのチーズもうまいぞ!食べるか?」

「わたしのスープもあげるー!」


 自分の挙動に喜んでくれるリーガル一家になんだか嬉しい気持ちになる。満腹になり、ソファの上でゴロゴロとしていると兄と妹が寄ってきてグレンをなでる。


「ねぇねぇ、カルロスお兄ちゃん。この子首輪してないよぉ」

「アニー、本当かい?あ、本当だ。じゃぁうちで飼うか?」


 急に自分を飼う話になりびっくりする。いくら自分が猫になったばかりで途方に暮れていたとはいえ、自分は人間なのだ。飼われるのではなく、自分が元に戻る方法を探すべきなのではないか?それにエリーと一緒に住むなんて、もし自分の正体がエリーに知られたら軽蔑されてしまうんじゃないか・・・?ここは断ろう。今日は止めてもらうが、明日には出ていこう。そう心に決意し、リアクションをとろうとした瞬間。


「まぁ、それは素敵ですわね!猫さん、家にずっといてくださいな!!!」

『いつまでも』


 想い人エリーにプロポーズのようなことをされつい首を縦に振ってしまった。しまった、こんなはずじゃなかったのに・・・何故・・・と反射で首を振った自分に問いかけたが、目の前のエリーがうれしそうに笑うからまぁ数日くらいなら滞在してもいいかと自分を納得させた。


 しかしその数日がどんどん引き伸ばされることになるとはこのときグレンはこれっぽっちも思っていなかった。












「見て下さい、ワイバー様。レッドっていうんですよ。この子、前に襲われた私を助けてくれたのです。私たちの言っていることもわかるし、とっても賢いのです」

「はっ。猫が人を助ける?夢でも見ていたんじゃないのですか?」


 なんで、僕がエリーの婚約者候補とお茶をしなければいけないのか・・・エリーの腕の中で思わずワイバーを睨みつける。しかし猫に睨まれているなんて思ってもいないワイバーは僕とエリーを見比べ鼻で笑った。


「夢ではありませんわ。この子、話しかけたらちゃんと反応してくれるもの。ねぇ、レッド」


 エリーが馬鹿にされるのが嫌でコクンと頷く。ちなみにレッドとは僕のことだ。目が赤いかららしい。本名も似た由来の為とても気に入っているが、この男に呼ばれたくはないなと思う。


「はは、たまたまタイミングがあっただけなんじゃないか?それならうちには鷹がいるんだが―――」


 そういって自分の鷹の自慢を始めたワイバーの話をにこにこと聞くエリー。なんでこんなことに・・・

 朝に自分の婚約者候補が今日来ると教えてくれたときにも「婚約者候補?サーヴァンスは婚約者じゃないのか?」と疑問に思ったが来た人物を見てもっと驚いた。来たのはアンノーン・ワイバー男爵子息・・・なんとサーヴァンスとの婚約は解消していたのだ。なにがあったのかはわからないが、フリーになったが年頃の彼女は新しい婚約者を決めるため最近よくお見合いのような物をしているらしい。それだけでもグレンの心は穏やかではなかったが、もっと驚いたことがある。それはエリーの惚れやすさである。


 このサーヴァンスにちょっと似たいけ好かなさを醸し出す男、ワイバーはなんとエリーから交際を申し込んだらしい。なんでも、凄腕の鷹匠というところに興味を持ったとか・・・どうやらエリーは一つのことに打ち込める人に好意を持ちやすいらしい。だからといって鷹が好きで人を軽蔑している節があるこの男でなくてもいいだろう・・・エリーのことは好きだが、趣味は疑う。あぁ、声が出せたら全力でこの男を否定するのに。


「今日はありがとうございました。またぜひお越し下さいませ」

「あぁ、そうだな。また来よう」


 そういいながら俺は見逃さなかった。この野郎がエリーの胸元をじっと見てにやにやと笑っていたのを!


『このスケベ野郎!二度とエリーに近寄るんじゃねぇ!』


 気が付けば爪を出しワイバーにとびかかり、顔をひっかいていた。ワイバーは悲鳴を上げ、腰をぬかしつつ「こんな凶暴な猫がいる家にもう近寄るか!」と逃げていった。勝った。


「あらあら、だめじゃない、イタズラしちゃ」

『イタズラじゃない。僕は君の騎士として害虫駆除しただけだよ』


 くすくすと笑っているエリーを見ると、ワイバーに振られたことはあまり気にしていないらしい。これで邪魔者はいなくなったと安心していたが、第二、第三のワイバーが次々と現れ、グレンに安息はなかなか訪れなかった。



















 それから半年たち、エリーは学校に入ることになった。グレンがいく予定だった国立の高等学校である。武術・魔法・商業等様々な分野の授業を受けられる国の中でもトップの学校であり、そこに入れるのは貴族か優秀な平民のみである。


 入学式の日、エリーの肩にはグレンが乗っていた。グレンはこの半年間で完璧にエリーのナイトになっていた。




 この半年、グレンはエリーの目を盗んでは家を抜け出し人間に戻る方法を探していた。しかし、猫の姿ではまるで調査が進まない。人と話すことも出来なければ本をめくることも出来ず、何かする前から八方塞がりという状況なのだ。


 そして人間になる方法を探す傍ら、エリーの婚約者候補を吟味し、ふさわしくないと判断した相手に対しては容赦なく襲い掛かった。エリーは身分は侯爵家の為高い方ではあったが、態度がぽわっとしている為なめられていることが多かった。僕以外がエリーの魅力を理解する必要はないが、エリーの良さがわからない馬鹿どもにイライラし、またエリーから興味を持たれる相手に嫉妬しついつい爪が出てしまう。自分がこんなに我慢がならない人間だとは今までこれっぽっちも知らなかった。恋は盲目とはこういうことかと驚いたが、猫だからか野性的本能に逆らえないのはしょうがないと言い訳をつけては爪を立てた。そしてこの半年で『リーガル侯爵家の守り神』という異名がとどろく程になった。この名が知れてからはエリーになめた態度をとる男はほとんどいなくなったが、それでもグレンの認められる男は出てこなかった。


 また、そんなグレンを見てエリーの兄カルロスがこんな提案をした。


「レッドをエリーの護衛にするのはどうかな。強いしエリーのこと大好きだしぴったりだよ」

「まぁ、それは素敵ですわね!レッド、私の護衛として一緒に高等学校に行って下さらない?貴族は一人護衛をつけることを許されているのよ」

『もちろんだ』


 こうしてグレンはエリーについていくことが決まった。




グレンは自分では気付いていませんが単純な男です。

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