第二章 第一話
四日町にある浄土宗西光寺で、葬儀は行われた。経のあとも参列者に御所号の哀れな姿を見せることはなかった。これより火葬されて、仏となる。
晴れ渡る中、北の梵珠山を目指し弔いの列が延びる。田畑が道の周りを囲み、その両脇を山が挟む。浪岡とはそういう土地だ。
末弟の顕光様は次弟の顕氏様や私らとともに列の先頭で馬に乗っていたのだが、突然鞭を打ち列から飛び出ていった。どうしたことかと思っていると、顕氏は私に体を近づけ耳元でささやいた。
「あれはまずい。奴は単純だからな。追ってくれ。」
私にも言いたいことがわかった。列を顕氏様や多田に任せて、顕光様の後を追った。梵珠山へ行く道筋には大釈迦という土地があり、そこは奥寺の屋敷がある。
すると前方より喪服の集団が見えてきた。奥寺が私たちを出迎えるために人を出したようだ。しかしどうも不穏である。中より怒号が聞こえてきた。いざ分け入ってみると、案の定である。
「おい、お前だろ。殺したのは。」
顕光様が奥寺を問い詰めていた。奥寺の家来が周りにいるというのに。相手の心の
内を考えることなく。
「こういうのは最初に見つけた奴が怪しいのだ。」
奥寺はただただ地面に額をつけ、”違うのです。お許し下さい”と言うばかり。慌てて私は顕光を止めに入った。少し大きめの声で振り向かせる。
「奥寺殿には殺せませぬ。」
顕光様はすぐに私に気づいた。顔をみると、鬼の形相である。私は奥寺の隣で、同じように畏まった。
「仔細を説明申し上げます。奥寺殿は御所の侍女に案内されて、二人であの場に入ったのです。その時にはすでに殺されていたのですから、奥寺殿ではございませぬ。」
奥寺と私は必死に頭を下げ、その場に座して手をつく。
いたたまれなくなった顕光様は唾を吐き、馬を横へと走らせた。一人になりたかったのだろうか、ますます姿が小さくなっていく。
……落ち着いた後で私と奥寺で互いの顔を合わせた。道の細かめの小石などが額に付いてしまっている。
不謹慎ではあるが、思わず笑いあってしまった。すぐに声を抑えはしたが、安堵の表情がみてとれる。
次第に南方より白い旗が見えたきた。葬儀の列が向かってくる。