第一章 第四話
石扉を閉じ、御所に戻る。
少しだけ落ち着く時間が必要だった。鼓動が止まらぬ、動揺がおさまらぬ。これまで幾つもの修羅場を通り抜けてきたはずなのだが、この度はどうも違う。
目の前で座す多田はきっと、私のいつもと様子の違うのがわかっただろう。いやおかしくなって当然だし、表情にもあきらかにでていたはずだ。……だがいつかは話を切り出さなくてはならない。落ち着くのを見計らい、もういいだろうと自分なりに踏ん切りをつけたのだろうか。多田は手元にあった何も混ざっていない茶碗の水を一気に飲み干し、特に険しい顔で語りだした。
発見したのは二日前。奥寺殿が御所号に頼まれていた書物をもって参上した時のことだった。御所号は奥方の胸元で、腹を刺されてお亡くなりになっていた。
奥方は気を失っているようで、奥寺殿に起こされたのだが、そのまま発狂してしまったらしい。だから誰が殺したかはわからない。刺された時の叫び声を聞いた者もいない。
ここで私は聞かされていない大切なことを問うた。
「真央君はどうなされたのだ。奥方にいつもべったりな。」
真央君は奥方の連れ子だ。御子はどこへ行ったのか。多田の声が弱くなる。
「それが、見つからないのだ。誰かが連れて行ったのかもしれぬ。」