第八章 第四話
夜は明けた。とても嫌になるほど落ち着いた、すがすがしい朝だった。
真央君は二度と浪岡、引いては津軽に足を踏み入れることはないかもしれない。
多田は自らの軍勢を砦より出し、近くに住む和徳の兵を併せ、関所を越えるまでの守りを固めた。
真央君は大きな黒い櫃の中、さくらは深い傘をかぶり道を進んだ。街道の両側にはひたすらに高い杉がまっすぐ伸びている。その列が矢立峠まで延々と続く。
杉の向こう側をみると稲穂が黄金色に垂れている。日差しを浴び、豊作の幸せをたたえていた。
次第に整えてある砂利地が見えてきた。そこが領地の境目、津軽の南口。顕氏は白い馬に乗って先頭を進む。多田はすこし後ろで脇を支える。
本当は現れてほしい。しかし現れてほしくないような……よくわからない心地のまま新御所は進んでいた。何かを話したい、でも話したくない。いつしか境目の前。顕氏は門前で号令をかけた。
「矢立の柵前についた。皆の者ご苦労。入り次第、しばし休む。」
何事も起きず、皆は安堵した。ここまでくれば、顕光様も現れないだろう。和徳は御所号に一礼し、兵を引き上げた。多田もまた守衛の軍勢に帰還を命じた。
だが……、柵の手前側、無造作な茂みに人が隠れていることを知らない。




