第八章 第三話
……宴も終わりを迎えるころ。浪岡より急使が到着した。顕光の反乱と南部勢による鎮圧、安東分家の討伐……浪岡は無事に静まったので、予定通りに殿下は京へ向かわれますようにとの内容であった。書状のしめは、補佐武房と津村信秀の連名で終わっていた。
津村の名を入れるということはつまり、南部としてはこのまま浪岡には戻らずにいてほしいと。一方で補佐は津村に従いざるを得ないことを暗喩していた。
……灯に油を注ぐと、炎の勢いは少しだけ増した。薄暗い部屋の中。顕氏と多田は密談をする。
多田は言う。
「……いまは浪岡に南部がいる以上、人質に取られたようなもの。好き勝手なことはできませぬ。」
「多田よ。そうはいっても戻ることになんの不都合がある。これ以上好き勝手にやるのは名分が立たないだろう。」
「なんとでも言い訳はできましょう。新御所は殺されることないでしょうが、補佐達は保障できませぬ。”敵味方わからず、誤って殺してしまった”とできるのですから。」
少しでも戻るようなそぶりを見せたらどうなるか……新御所は改めて事態の深刻さを悟る。
「とにかく新御所は予定通り京へ向かってください。私は少し遅れて後を追います。」
「どうするのだ。」
「はい。安東の者を連れていきます。」
安東の者を引きつれ、将軍家に釈明をさせる。身内には反乱分子はいないのだと。したがって南部の攻撃を受けるいわれはないし、やめさせてほしい。もし南朝に与する者がいれば、我らも総出で討伐に協力すると。
南部は安東を早く攻撃したい。安東がやられてしまえば、浪岡は完全に南部にのまれてしまう。これだけは防がなくてはならない。
「……して、弟はどうなった。」
新御所はいまだ信じられない。
「はい。”一目散に逃げた”と使いは申しておりました。」
…………
新御所は確信した。弟は、こちらに現れる。
「まさか……」
多田は苦笑いをした。別れの挨拶にでもくるのかと。しかし顕氏の考えは変わらない。
「弟のことだからわかる。狙いは当主の座でなく、南朝の復興でもない。……真央君の命だ。」
炎が、一瞬揺れる。
多田はいまだ半信半疑だったが、新御所の言葉にひとまずうなずいた。
「そうお考えでしたら、関所までは私も同行いたします。」




