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第八章 第二話
それは起こったのだ。台所より盗んだ包丁を片手に、その御子は決意した。仇をとろうと。
母上を奪ったあいつ。居場所はわかってる。真央君に、ためらいはなかった。
襖を開けた。そこには、母の膝枕で寝ているあいつがいた。
“……何をする気”
“すまぬ、母上”
目を閉じたまま、腹を刺した。
人の体は、やわらかった。
母は、事態を飲み込めない。
痛みのせいか、それとも母が揺り動いたためか、義父は目覚めた。腹に目をやると刺された包丁。目前には最愛の息子。自身ではそう思っている。
義父は悟った。息子は仇を討ったのだと。
母はただ呆然とするだけ。義父の感じる痛みも次第に強まってきたが、必死にこらえる。大きな声をださないように。
“こうなったのは、私のせいだ”
全てを背負って、逝こうと考えた。
最後に残る力を振り絞って、言葉を発する。
「真央、逃げろ。」
開きっぱなしの襖から、何も知らない奥寺とさくらがやってきた。同じくして、父の息は絶える。
母は、発狂した。




