第七章 第七話
私も負けてはいない。体をさらに顕光様によせて、力を気合で補った。冷気は熱気に変わる。
そのとき、どこからか鬨の声が発せられた。それは必死に戦っている二人にも、周りで戦っている一矢らにも聞こえた。存ぜぬ顔の鎧武者たちが門の方より押し寄せる。
……もう、お終いだ。
一矢はその場に膝をついた。
……誰も、予期しなかったであろう。
ある武将が、名乗りをあげた。
「やあやあ、我こそは南部家臣、津村信秀である。わが殿の命により、主君殺しの北畠顕光を成敗いたす。」
どういうことだ……。顕光様は私の刀を振り切り、いったん後ろへ下がる。南部勢は次々と赤いはちまきをした者たちを倒していく。彼らはもちろん、顕光様の従者だ。顕光様は急いで津村の方へ駆けた、津村の目前に躍り出た。気は荒く、息もそうとう切らしている。
「どういうことだ。味方ではなかったか。」
津村はうすら笑みを浮かべた。
「何をおっしゃる。あなたこそ先の御所を殺め、養子の真央君をも亡き者にした張本人。今も次兄のいぬ間に戦っているではないか。」
顕光の心情は計り知れない。……彼は必死に戦っている従者らを見捨て、あろうことか逃げた。小屋から適当な馬を選んで、ひたすら南へ駆けていった。
…………
津村は、私の前に進み出た。赤い兜赤い胴丸が印象に残る。以前に何度か見知ってはいたが、初めて言葉を交わす。彼は片膝をつき、私の目前に参じた。一種の感激を覚えているかのようだった。
「貴殿はもしや誉れ高い……葛西武房殿でございますか。」
私は応えた。
「いかにも、私が武房だ。しかし、今は先代から戴いた新しき名字“補佐”氏を名乗っておる。」
「顕光がいなくなった今、あなたがここの代理です。そこである許可をいただきたい。」
「なんだ。」
「顕光の仲間に、安東氏の分家も参加しております。そこで、外ヶ浜や田名部に兵を出すことをお許し願いたい。早々に成敗いたしませぬと、後々大変なことになります。将軍家より北奧の治安を守れとの命も受けております。」
将軍家は反乱分子を今のうちにつぶしておきたい。大事になる前に。ただし、南部の真意は違うだろう。
「補佐殿がひとつ頷けば、我らが総出で成敗いたします。なあに、遠慮することはございませぬ。それに当分の間こちらも手薄でしょうから、しっかりと南部の侍が守らせていただきまする。」
津村はそういうと、己の胸をたたいた。自信ありげでに。
……こうなれば、認めざるをえまい。
私は満面の笑みで許した。心の中とは裏腹に。
これより浪岡は約二百年もの間、南部氏の監視下に置かれるのである。




