第七章 第四話
あれこそ南部の旗印。浪岡が滅ぼされる。
絶望しかない。圧倒的にこちらが不利だ。
……いや、あきらめてはいけない。急ぎ武具を持ち、抵抗しよう。さあ武器庫へ。酒樽を積んだ荷台をその場に置き、家来らと共に急いだ。
すると、武器庫の周りには赤い鉢巻を巻いた武者たちが集まっていた。備えるにはやけに早い。一矢は”どいてくれ”というが、武者たちは”顕光様の言い付けです。”といい、入れさせてくれない。
中から、顕光様が出てくる。彼も同じく頭に赤いはちまきをしめていた。
もう苛立ちを隠さない。一矢は強めに問うた。
「なんのつもりです……。」
顕光は笑った。
「新しい御所号になるのはこの私だ。こいつらに前祝いとして、酒を振る舞ってやれ。」
「……なにをおっしゃる…………。」
「まだわからぬか。」
きっと、一矢は真っ青だったに違いない。
顕光様は、さらに追い打ちをかけた。
「殺したのは真央君であろう。」
辺りに動揺が走る。顕光様はお構いなしに続けた。
「確かに、御所号が殺されて一番に得をするのは兄上だ。加えて真央君も始末すれば、跡目は確実に転がり込んでくる。しかしそこまで私は馬鹿じゃない。故に兄上の元へ間者を放った。真相を確かめるために。するとでるわでるわ。私抜きに事を進めている様が。」
顕光様は腹の底からいかにも大げさに、そして哀しげに笑った。
一矢は厳しい口調で問う。
「どうなさるおつもりで。」
ふっ、知れたことを。
「あいつらは、そこまで武備を固めてはいまい。泊まるはずの多田の本拠を、夜に襲う。」
「そんなこと、許されるとお思いですか。」
顕光はさらに、高々と叫んだ。
「許されるさ。北奥にて、大覚寺の復興だ。南部氏も味方だ。」
顕光様は一矢に近づく。彼の手は一矢の首元から顎を掴み……落ち着いた声で誘う。
「こちら側につくなら、今のうちだ。」




