第七章 第三話
旧暦八月吉日、京へ向かう一行は浪岡を発った。百人に及ぶその行列には、北畠累代の家来がお供し、将軍家や朝廷に献じる貢ぎ物も運ぶ。御所には顕光様と補佐氏らが残る。
秋晴れの中、行列は遠くへ離れていく。一矢ら居残り組は途中まで出向いて見送った。顕光も一応身なりを整えて最後までそこにいた。行列の姿が消えるなり、一矢に命令をだす。
「酒を御所に用意せよ。」
えっ。何を宣っているのか。
「酒を用意せよ。」
一矢は当然の如く制止した。だが逆に顕光様は怒鳴った。
「勘違いするな、単に酒盛りをするだけと思うか。」
御所に戻ると、不本意ながら準備を始めた。門番から鍵を借り、数人の家来と共に倉庫へ出向く。奥においてある樽をいくつか選び、わざと良質でないほうの物を荷台に積む。せめてもの抵抗だ。
荷台の先頭を引っ張り、後ろを家来が支える。そうやって元来た方へ向かっていると、なにやら使用人達が騒ぎ出している。
「補佐様……東の方に、人波が見えます。」
一矢は彼らと共に、東の山々を見上げた。すると、多くの武者が木々の間から現れて来るではないか。
数はわからぬ、敵……なのか。一矢は大声をだす。
「外にいる兵を集めろ。四日市に伝達せよ。」
由々しき事態だ。遠目に旗差しを見ると……あろうことか、白地に鶴が描かれているではないか。




