第六章 第三話
夕刻、一行は大釈迦についた。奥寺は少し驚いていたが、顕氏様のお出ましとなって、すぐさまもてなしの手配を命じた。
しかし顕氏様はいらぬと言った。それよりも真央君と会わせよと。出発前であった真央君と侍女のさくらは新御所の目前に参上した。
顕氏と真央、二人は真正面に対座する。顕氏様は言った。
「真央君。何か忘れてはいませぬか。」
真央君は頭をあげ、顕氏を見つめる。御子は口を固く閉ざしたまま、顕氏はなるべく穏やかに諭した。
「ならばいおう。私に謝罪はいらぬ。しかしな、このたび迷惑をかけてしまった者たち。母上への気持ち、謝りの一言もないのか。」
“いらぬ。そのようなもの……”
「何を言う。そうならば船はださせん。」
“ならばよい。ここで死ぬ”
顕氏様は真央君を睨みつけた。まるで鬼の如く、何もかも許さない。
怯えた真央は次第に体を揺らせ、それでも顕氏から目をそらさんとばかりに踏ん張るが、いつしか下を向く。体を抑えようと床を手で何度も叩きはじめて強気の様を見せようとするが、周りの大人からしてみればすべてが無意味。叩く鈍い音が部屋の中に響きわたる。
さくらは居てもたってもいられなくなり、真央君の体を強く抱いた。そして大声で訴える。
「おやめ下さい。何があったのか知らないくせに。」
真央君は泣き始めた。さくらはすべてを覆うように、本物の母親のように、害する者から守ろうとした。




