第一章 第二話
通る道の脇にある林より、イタチがこちらを見つめている。暗闇のせいでもあるが、眼光が鋭い。月明かりに照らされたその姿は、あくまで両手を前に下げて立っているだけなのだが、目が光っていて何か怖い。本当はかわいいかもしれないが、その目だけはやめてくれ。それに今は君と遊んでいる暇はないのだ。
私は動かぬ彼の真横を通り過ぎ、目的地へと向かった。七日町南西の端に、浪岡の御所がある。簡単な空堀で囲まれ、西もしくは東側の木橋で館へ入れる。四日町より向かうには横目辻を曲がり、浪岡八幡宮を囲む林を東へ進む。……西門に番人が二人いたが、私の顔を見るなり通してくれた。
……館へ静かに上がる。少し広い土間で草鞋を脱ぎ、奥へ進む。続くのは無音の空間であった。三部屋ほど過ぎて最後の襖を見やると、その部屋は蝋燭の火で薄暗く照らされている。……膝をつき、襖の下を横へすべらせると、そこには布団で寝ている人物と横に座っている男がいた。
その男を私は知っている。
「多田殿……。どうしたのか。」
多田は深々と私に頭を下げた。御所管領という役柄は気が滅入るのだろう、私よりも若いのに白髪が多い。特に今日は顔色も悪い。
私は多田の隣にすわる。ござは冷え切っていた、外は暖かいのに。締め切っているからであろうか。
ここで多田は少しだけ首を動かし、私に合図した。目線の先には布団で寝入る者。毛布より出いる顔一面。……嫌に白い。雪よりも白いかも知れない。……そっと、肌に手をあててみた。
……えっ。
多田は少し前屈みになり、布団を開ける。すると、どす黒い濃いシミが直衣に。腹のあたりより弧を描くように広がっていた。
外からはフクロウが聞こえる。何も考えることができない私の頭に、その不思議な鳴き声だけが響いた。
「誰が殺った。」
多田は首を振る。下を向き、亡き御所号の姿をみつめるのみ。