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第六章 第二話
顕氏様は言った。
「補佐武房よ、大釈迦へ行くぞ。」
突然のこと、このような雨の日に。
「約書は受け取った。確かに真央君の字だ。しかし本当にこれでいいとは思えない。」
後ろで多田は顕氏様の番傘を持ち、いかにも納得していない様子である。顕氏様は続けた。
「謝罪の一つもしていないではないか。このまま浪岡から去るのは、真央君の為にはならない。」
思わず、多田は聞こえるか聞こえないかの声で抗す。
「きれい事ですよ……。」
顕氏も逃がさず、すぐに後ろを見やる。
「何を言う。船が出るのは明日。会えるのは今しかないのだ。」




