第六章 第一話
私と顕氏様・多田・奥寺の四者間で合意がなされた。
第一に顕氏は御所を継ぎ、将軍家への挨拶と朝廷への官位受領に出向く。
第二に奥寺は真央君を匿っただけであり歯向かう意思はない。よって罪は問わない。
第三に真央君は領外へ追放する。これは罰でもあり身を守るためでもある。世間に真央君が殺ったことは知られておらず、いざ漏れたら大変危険である。特に顕光に知られたら不測の事態が起きるだろう。今のところ犯人は侍女のさくらということになっているので、彼女も真央君と共に領外へ出し養育係とする。
「しかし、父上。気になりませぬか。」
私は久しぶりに七日町にある息子の自宅へ出向いた。その日は小雨で、ずいぶんと前から止まない。ぐつついた天気だったが、一矢と昼餉を共にしたくなったのだ。そこで私はある心配事を耳にした。
「顕光様はずっと引きこもったまま。なにやら人を集め、話をしているとの噂です。」
「何を語るというのだ。」
一矢は首を振った。
「わかりませぬ。調べてみますか。」
「いや。顕光様を調べても……すでに、犯人は明らかになっているのだ。あちらでも、犯人について何かを調べているやもしれぬが……。」
騒動を起こさせないため、私や多田が知っている話を顕光には通していない。暴走をされても困るからだ。一矢は続ける。
「噂によると……南部の者もいるようで。」
南部が?何のために。
「それに京では大覚寺様が“約束が違う”と訴え出ているとか。各地の旧南朝方に働きかけていると……将軍家から参った使いが館で話しておりました。」
南北朝合一以来、大覚寺統(南朝)と持明院統(北朝)の間で様々な取り決めがなされた。しかしそのほとんどが反故にされた。旧南朝側で不満がたまっている。
糠部南部氏の中にはめっぽう南朝に忠じる支族があり、大覚寺が誘ったとしても不思議ではない。しかし、時勢を考えるに、将軍家に逆らうなどできやしない。
「確かに……。一矢、調べてみるか。」
ただし、疑ってかかることだけはするな。かつての悲劇を繰り返してはならぬ。
そのときだった。屋敷の木戸が音を立てて開かれる。振り向くとそこには顕氏様がいた。後ろには多田と従者らも侍っている。




