第五章 第六話
後日、多田は再び私の元に訪ねてきた。この老体を休める暇もないなと感じたが、彼の比ではないと思い反省をした。多くの雑事を抱えており、特にこの当主不在の状況下では代わりに表舞台に立って動いている。
……申しわけない。悩みを増やすことになるだろうが、いい加減にあの事を教えなければならないだろう。白髪は増し、やつれた表情である。
私は事実を余すことなく伝えた。
多田にとっても衝撃をうけることだったが、すぐさま気を取り直して事務的な物言いをした。きっと、気持ちを押し殺していることだろうが。
「ならば、真央君に己の相続権を放棄させましょう」
私も応じた。
「確かにそうすれば、顕氏様は迷うことなく御所を継ぐことが出来る。何も問題はない。」
だが、どうする。仮にそうしたとしても真央君はどうなる。それは多田も理解しているだろう。彼は目を閉じ……数秒そのままで、あることを考えている。
すなわち……殺すか否かである。
非常に難しい判断だが、ずっと長引かせてもいられない。すでに御所号がなくなってから幾月経つのだ。かといって凡人にとっては無理な話。ただし彼だけは違う。その思考法は、一挙に役目を引き受けるうちに確実に研ぎ済まされていった。相当前に亡くなった彼の父のことを彷彿される。
…………
目を開くと、彼は言った。
「奥寺殿に連絡をし、覚え書きを真央君にお記しいただく。相続権放棄と引き替えに、こちらも真央君の命は奪わない、ということにします。」
お前は、そういう選択をするか……。御所管領はお前だ。口は挟むまい。続けて私は問う。
「顕氏様にはどのように話す。」
一息置く。
「新しい御所号が何も知らないのでは、事が始まりますまい。」




