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第五章 第五話
多田は家より去った。中にいるのは私と妻のみだ。手元にあるのは汁椀。残っていたお吸い物の大根を口に入れる。やわらかさが少し増したようで、簡単に舌で崩れ去った。
互いにしばらく無言だったが、妻から先に口を開いた。
「先ほどのお話ですが……。」
「なんだ。」
「悪いことをしたならば、それを自覚させ、何にせよ謝らせるようにし向けるのが大切かもしれませんね……。私など、一矢は身勝手に人を殺すような悪い子ではございませんでしたから、まともに怒ったことなどありませんが。」
妻はにっこりとした。私はその表情に安心感を覚え……お椀に残っていた汁をゆっくりと喉へ流し込んだ。




