第五章 第三話
……顕氏様や多田はまだ知らない。伝えるべきだろうが……気が進まない。
私はやっとのことで四日町の家に戻った。妻は大濡れの様を見てたいそう驚き、すぐさま風呂に入るように勧めた。丸い桶に体を浸し、そのまま肩から上も沈めさせる。
外の激しい音は次第に小さくなっていく。嫌なときに帰ったものだと後悔する。
そのような感情のまま湯桶から出て、手拭いで顔をふき、体の全ての穢れも落とした。
再び、桶に入る。
……湯は、ひたすらに黒い。
“悪”であれば処罰しよう。害をなす“敵”ならば制圧しよう。しかし相手は子供だぞ。これからの育て方次第では“善”にもなり得る。
しかも、発端は御所号自身だ。
ずいぶんと長い風呂になったので、私と同様に老いた妻が覗きに来た。長年連れ添ってきた。互いの心をわかり合っていると信じている。ひとつ、問うてみるか……。
「なあ。もし、小さい子供が間違ったことをしでかしたら、どうする。」
戸の向こうより、妻は返答した。
「それは叱りますね。同じ事を繰り返さないように、言い聞かせます。」
「なら、もしその子供が人を殺すという過ちを犯したらどうする。」
「それは初陣でございますか。」
「いや……なんでもない。」
すべてがすべて、わかり合えるはずはない。とてもじゃないが言えぬ。




