第五章 第二話
雨は滝のように降っている。何を話そうにも音で全てがかき消される。
このようなときに、わざわざ帰ろうとしなくてもいいだろう。一日ぐらいここで泊まっても許される話だ。
そうではあるが、私の体は早く帰りたいという。どうしてだろうか、そこに真央君がいらっしゃるからか。すべてを悟ったような目つき、巷ではしゃいでいる子供とは違う。聡明だという事ではない。あきらめなのか、強情を張っているのか、なんといえばいいか……頭の中はまとまらぬ。
ふと、かつての記憶がよみがえる。御所号に命じられ、川原を攻めた時の事。お前の父上の首をとったのは私だ。小さな護身用の太刀で立ち向かってきたが、運は尽き、私の武が勝つ。
血などというものを、武者であれば怖がるいわれはない。攻める前に”これは間違っている”と感じていても、その場では目の前のことに懸命にならねば死んでしまう。命が奪われてしまう。そうであるので、ある意味でお前の父上の死も、たいそう人が死んだ中の一場面でしかなかった。いいかえれば、大将であろうが一兵卒だろうが同じ命ではないか。御所号の死も一緒……。
ああ、私は何を考えている。わけがわからず、支離滅裂な様である。奥寺から借りた藁の帽子をかぶってはいるが、ほぼ無意味だ。馬と共に雨をまともに受ける。すまないな、こんな時に走らせて。




