第一章 第一話
残雪が溶け、北国にも春が来た。東の山々のヒバやイチイがいっそう輝いて見える。明るい季節に向けて緑色が湧き出で、葉に付いている少しだけ冷たい感じの水滴は、草木に活力を与えているようにも思えた。
庭先の梅も咲き、それをめがけてメジロがついばみにくる。チーチーと鳴く様が、私は好きだ。
私は軒先に座って、鳥の口先をじっと見つめてみた。しばらくすると鳥も気がついたようで、一瞬こちらに顔を向けたが、何も害がないことがわかるなり首を戻して餌をくわえた。
それからも鳥の様子もあわせ、軒先の芽吹きを眺め続けた。……特に楽しいというわけではなかったが、隠居の身であればなにもやることがない。以前に御所号は”歌はどうか”とお誘いになられていた。そろそろ伺うべきか……。
「あなた、お客様が参っております。」
後ろから突然の声。さして大きかった訳ではないが、思わず驚いてしまった。つくづく鈍くなったものだと思う。妻の後ろよりやってきたのは、息子の一矢であった。
「どうした。暗そうな顔をして。」
「いや……皆にことごとく、出仕禁止の命が下っているみたいだ。」
「それはなぜだ。」
一矢は不安そうな表情で、なにか戸惑っているようである。
「わからない。罰せられたわけではなかろうし、七日町の連中にも詳細が届いていない。もしや父上ならご存じあるかと。」
七日町は武士町であり、御所の軍事を担っている。昔は私もそこに住み出仕していた。対して私のいる四日町は庶民が多く暮らしている。
もし何かあるのであれば七日町に動きが見られるはず。まっさきに私へ知らせがきて当然なのだ。なぜなら……、いや、ここでは伏せておこう。