第四章 第一話
”……なあ、本当だと思うか”
”だよなー。ありえないよ”
”娘さんは、“自分が殺した。奥寺様はこのことを秘密にしてくれた”と言っているけど”
”前後も噛み合わないし、なにより連れ子はどこにいったんのだい”
私も本当の事を言っているとは思えない。だがあのように口にしたのは本当だし、奥寺殿も認めた。覆しようがない……。いま侍女はあの石扉の牢獄にいる。いずれは顕光に殺されるやもしれぬ。……本当にそれでいいのか。
その夜は満月だった。再び私は御所へ出向く。鍵を持つ多田と共に、地獄の扉を開けた。それはずっしりと重く、外界より隔てる。下の間隙をみると、ただただ暗さのみ広がっている。
多田は問う。”本当にやるのか”と。ああ、やるさ。真相へと繋がるのだから。
一番の底、牢の目前についた。奥方の頬はげっそりとして、すでに叫ぶ気力もないか。すでに餓鬼である。目をつむり寝ているか、もしくは……果てる寸前か。
その向かいには侍女の牢がある。侍女は小さく正座をして、私と多田を見るなり一礼をした。
「私は君の名前を知らない。何と申す。」
侍女はか弱く応えた。
「……さくらです。」
私はわざと表情に笑みを浮かべて、さくらへ語りかけた。
「私にはお前が殺したなどとは思えない。そこで逃がすことにした。」
このままでは処刑される運命から逃れることが出来ない。それを黙っていることは無理だ。
……ほら、その手。その可愛らしい手では、とても人を殺せまい。
さくらは、訊いた。
「本当に、いいのでしょうか。」
戸惑いを、隠せない。