第三章 第四話
「して顕氏様、父上。どういたしますか。」
息子は問うた。私は答えた。
「……仮に、水谷が殺ったとしてだ。親族が御所号を殺める。その場を見ていたら発狂したくもなるだろう。」
「酷いことをおっしゃいますな。目が覚めたら、死体が胸元にあった。それだけでも狂いますよ……。」
そうだな。その通りだ。
「それに、争った形跡はなし。部外者が入った様子もない。いったいどのような状況だったのでしょうか。」
まるで誰かが嘘をついていなければ、ありえない。
……だとしたら、誰が嘘をついている。
まず、多田はありえない。万事取り仕切る立場にいるので、一人になることはない。何より動機がない。なら……奥寺はどうか。最初に発見したのは彼と御所の侍女だが、二人でいたわけだから……それに動機もない。
……そう申せど徒党を組んでやったかもしれないし、動機など知らないところで恨みなど生まれていたかもしれぬ。誰かが御所に水谷の手の者を引き入れたとも考えることができる。……ああ、身内をこうも疑わなければならぬのか。解決は無理だろうよ。
私は目に指を当てた。しばらくして垢を手の内に落とし、近くにあった布巾にぬぐった。少し上を向き、大きく息を吸い大きく吐く。
「どうでしょう……。もう一度、御所で周りにいた者らに聞いてみましょう。それで何もなければ……時間切れです。」
顕氏様はだまって頷く。私は続けた。
「そしてその暁には、浪岡の御所号におなりあそばされますよう、よろしくお頼み申し上げます。」
…………仕方なかろう。その時には必ず、なろう。