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第三章 第三話
川原の屋敷は滅んだが、なんとか逃げ出せたものも少なからずいた。その中に水谷の娘がいた。そして水谷の娘は川原御所の奥方である。すなわち奥方は、分家の未亡人。
私によって事実が明らかになった後、どこからともなく探し出された。今更ながら反乱など起こす気はなかったと証明はさせたが、死んだ者が生き返ることはない。
あわれに思った御所号は、奥方を自分の妻にした。そのとき、身ごもっていたのが……真央君だ。あの連れ子だ。
きっと水谷氏の中でも逃げうせた者もいよう。何人かは上方に逃れたと聞く。彼らがこう思っても無理はない。川原を滅ぼしたに飽き足らず、かわいい娘を奪い取り屈辱を与えているのだと。
顕氏様は否定した。
「奪うなど……もってのほか。身寄りの無くなった奥方を守っただけだ。兄上……いや、御所号はそんな方ではない。」
御所号にしてみれば、責任を感じてのことであろう。長い刻を経て、奥方の心を開くよう気を配っていた。側室もとらずに懸命に尽くした。今では仲のよき夫婦となっていたのに……。