プロローグ
”嘘だ”
暗闇の、未だ溶けぬ雪の中。子供だろうか、そんな若めの声色だ。
”真でございます”
大人の声も聞こえた。こんな寒い時に外で何をしている。
”ならば、この場で示してみよ”
強めに問うたようだが、なにやら泣き声のような、受け入れることのできぬ想いが伝わる。
”いずれ、わかることでございます”
農夫は声の元へ寄ってみる。足音を立てぬように笹葉などをよけながら。するとヒバ林の木陰より、すでに一人で取り残された子供を見つけた。
その緑衣の御子は膝を曲げ、地べたに手をつけて、打ちしがれたかのようであった。彼には絶望しかなく、こちらにはまったく気づかないようだ。
話しかけるべきか否か。……迷っていると、突如としてビューと冷たい風が通った。積もっていた雪が目前に舞い、私のまぶたを閉じさせた。……再び目を開くと、そこにあったはずの御子の姿は消えていた。
何か怖ろしく思えた。心の底から震えが起こる。こんなにも暗い刻に、こんなにも高貴そうな子が出歩いるはずはなかろう。物の怪か?それとも川原の亡霊か。
薪は積んだ。はやく家に帰ろう。……今夜のことは忘れよう。不気味だからな。