勇者様の魔王城襲来の副産物
魔王城での騒ぎの後の、王宮でのお話。
────きっかけは、なんだったのかしら?
きっと、わたくしたちがあの小娘を追い出したことね。
だって、頭の堅いあのオバサン………もとい、魔女のアンバーが勇者様にすべてを話してしまってからいままで、勇者様を見たものはいないもの。
「リリアノーラ、勇者様はどうされたのだ」
「知らないわ、お父様。あんな小娘より、わたくしのほうが美しく、権力もお金もあって、スタイルだっていいのに!あんな小娘を探しにいくだなんて、レオ様はどうかしていますわ!」
お父様のいぶかしげな言葉に返しながら、わたくしはギリギリと奥歯をかんだ。
あんな邪魔でしかない小娘、殺しておけば良かった!
魔女は頭のよさと強さが自慢のようだけれど、全然役に立たないし、レオ様に小娘のことをぺらぺらしゃべって、邪魔だし。
レオ様にまとわりつくものすべて駆除してしまえば良かったわ!!
レオ様だって、わたくしのほうがいいに決まっているのに!
「小娘…………勇者様は、誤って召喚に巻き込まれたあの娘を追っていかれたのか………?それより、あの娘はどうしたのだ!リリアノーラ!」
「暗黒の森に放り込みましたわ、丸腰で」
「なんということを!」
「だって、邪魔だったのだもの!!お父様は黙っていてちょうだい!お母様も勇者様とわたくしが結婚できるならばと許してくれましたわ」
顔を青くするお父様なんて、無視。
わたくしはわたくしのしたいようにするし、手にいれたいものはどんな手を使ってでも手にいれるもの!
今までだって、そうしてきたもの。
ドレスも宝石もお菓子も。欲しいものはすべて手にいれる。
それが手に入る身分にいるもの、わたくしは!
それなのに──────
「これは、なんですの?お父様!!?」
「魔王城からの、請求書だ。これだけ用意しろと。できなければ、それ相応の手段に出ると」
「なぜ!!」
「知らぬ。しかし、話から察するに、お前が追い出した娘と勇者様に関することだろう。なんてことをしてくれたのだ」
ある日王宮に届いたのは、剣に絡まる薔薇と漆黒の翼を型どった紋章の封蝋がされた、一通の手紙。
それにはわたくしの持ち物全ての値段よりも高い、それこそ城一つ変えるくらいの賠償金が書いてあったわ。
魔族が賠償金なんて、はじめてのことよ!
しかも、人間の通貨はいらないからそれ相応の宝石や金銀で用意しろなんて!
それが、わたくしたちが小娘を追い出したからですって?!
バカにするのもいい加減にしてちょうだい!!
わたくしは悪くないわ!
レオ様にまとわりつく、あの生意気で身の程知らずな小娘が悪いのでしょう?!
「おお、勇者様!!!」
「レオ様!!」
そう憤慨していたとき、不意にがちゃりと広間の扉が開き、レオ様が入ってきた。
あぁ、戻ってきてくれたのね?!わたくしのレオ様!あんな小娘よりわたくしのほうがいいに決まっているもの。
小走りで駆け寄ってレオ様の腕に絡み付き、自慢の胸を押し付ける。
殿方ならば、わたくしの体は垂涎ものでしょう?
本当ならば、抱きついてキスしたかったけれど、お父様の手前我慢したわ。
「ねぇ、レオ様。わたくし…────」
「離せよ、香水臭いし邪魔」
「んなッ!」
そんなわたくしの心なんてお構いなしに、レオ様は腕を抜くとわたくしから距離をおいて、そう言った。
なぜ?
わたくしはレオ様のことがこんなにも好きで、レオ様のために美貌をみがき、レオ様のために香水を選んでいるのに!!
「………───────あの小娘のせいね?!忌々しい!レオ様はわたくしのものでしょう!!」
そう、レオ様はわたくしのもの。
だって、今まで望んで手に入らなかったものなんてないもの!!ドレスも宝石もお菓子も。レオ様だって例外ではないはずだわ!!!
「ちょっと黙ってろよ」
「はぁ?!」
どういうことなの、これは!
やっぱり、あの小娘が悪いのよ!すべて、なにもかも、そうあの小娘せい!
「勇者様、この請求書はいったい」
「あんたのバカ娘とバカ女が追い出した、俺の幼馴染みが魔王城にいる。そいつらが追い出したせいで。それで茉莉花を取り返しにいった結果がそれ」
「これを払えと言うのですか?!」
「当たり前だろう。娘のやったことの責任くらいとれよ」
「わたくしは悪くないわ!あの小娘が悪いのよ。わたくしとレオ様の回りをうろちょろして、目障りだったのですもの。わたくしは悪くない、悪くないわ!」
わたくしは悪くない。悪いのは、あの小娘。
たいして美人でもなく、スタイルがいいわけでも、お金があるわけでもない。
なのになのに─────あの小娘がすべて悪いのに!
「勘違いするなよ、王女さま」
なのになぜわたくしが攻められなければならないの?!
わたくしを冷たい目で見るレオ様と、お父様。
なぜそんな目でわたくしを見るの。
わたくしは悪くないのに。
「リリアノーラ、お前はしばらく謹慎していなさい」
その場におちたのは、いつになく厳しい声色のお父様の言葉。
間もなく、わたくしは兵や侍女に急かされるようにして自室に戻り、しばらくは出ることができなかった。
その間にわかったのは、この国の国庫は今回の請求のせいで苦しくなったということと、わたくしはほしい宝石やドレス、お菓子を手にいれることができなくなったということ。
そして、わたくしのお父様は魔族の『それ相応の手段』を恐れて、請求の額だけの宝飾品などの国宝を国庫からだしたということ。
「わたくしは悪くないわ、悪くないのに」
そして、わたくしの身柄は離宮に移されるということ。
「なぜ?!わたくしは、けして悪くなんかないわ!」
どうしてこうなったの?
わたくしのせい?
確実に分かっているのは、今までと同じ暮らしはできないということだけ。
───────どうして?
教えてちょうだい、レオ様─────
お前も責任とれよ!という勇者様への突っ込みはなしで!(-_-;)
甘やかされて育ったわがまま王女様と、アルリードさんが送りつけた請求書のお話でした!
文鎮とアリエルさんのお茶セットの代金こみ………ちなみに魔族は基本的に人間の通貨はつかいません。
*****その頃のアルリードさん*****
「アルリード、お前本気であの請求書送りつけたのか?」
「当たり前だろう?!あんの勇者のお陰で財務の会計と俺がどんだけ頭悩ましてると思ってる!」
そう、俺はハゲそうなくらい悩んでいるんだ!
「城の奥に積んである宝物いくつか売り払えばいいのではないか?アルリード」
「バカいえ、あれを売り払うなんて正気じゃない。あれ、全部いわくつきだろう?しかも、魔王にしか扱えないとか、そういうやつ」
「まあ、そうなるな」
「そんなもの売り払えば、あちこちから苦情殺到間違いなしだよ」
「そうだな」
「俺をころすきかよ、ジーク………」
「そういうつもりはない。人間の王から思う存分搾り取れ」
「勿論!」
そうして魔王の許可をもぎとる……………(でも事後承諾)