勇者様の帰還
───進展のない、やたら物騒な会議から三日。
魔王城は今日も平和……………な、わけではなかった。
実況風に言ってみたけれど、現実逃避にしかならないね!
ただいまわたし、茉莉花は最大級のピンチに陥っている。
ちよ、誰か助けて………
「………───────マリカ、大丈夫か?」
「全然」
「だろうな」
原因は、またしても勇者な幼馴染みのアノヤロー、もとい疫病神である。
数日前に血薔薇の魔境に放り込まれた勇者であったけれど、持ち前のチートさをフル活用して、魔境から数日で生還、もとい帰還したらしい。
帰還するなら、あの頭の軽い?悪い?お姉さんたちのとこにすればよかったのに!!
魔王城に帰還する勇者なんて、頭おかしー以外の何者でもないから!!しかも、あのやろー……城の門ぶち破って入ってきたらしく、アルリードさんが青筋たてて見に行った。
報告に来た魔族の兵士さんは満身創痍だったし、やっぱりあの幼馴染みは災害以外の何者でもない気がする。
そろそろ泣いちゃっていいかな?いいよね!?でも涙がでないよ、泣く通り越して現実から逃避した いよっ!!
「……………ジーク、あれ、滅ぼせない?」
「望みとあらば、滅ぼそう」
「いや、ね?ちょっとした、冗談デス」
「……」
「……」
今回も書類の決済中な保護者様ことジークに言ってみたら、見事に真剣な顔で宝剣を出された。チートって、こわい。
というか、どっから出てくるの?そんな禍々しい黒の宝石ついた真っ黒の宝剣。執務室においてていいものじゃないよね?!
ちなみにあんな騒ぎが起きてても、ジークは平然と書類の決済を続けています。はい。真面目だね。
こないだはわたしがインクの入った壺倒しちゃって、書類全部真っ黒にしちゃったしね。ごめん。
「───で、勇者は次はなんのようだ。マリカが嫌がっている。完結に用件をのべたあと国に帰れ。その方がお前の命的にもいいと思うぞ?」
流石に無視できない騒ぎになったからか、ジークが玲音に向かっていい放った。
あ、最後の言葉はあのやろーへの心からの気遣いだね?ジーク!
そんなところもさらっとイケメンッ!!もう少しでアリエルさんが来る時間だし、たぶんそろそろアルリードさんも帰ってくるもんね!!
あの二人、そうとう怒ってたしね。その節は本気でごめんなさい!文鎮投げたの、実はわたしなのだよ!言わないけどね、絶対!!
だいたい、玲音が文鎮を顔面で受け取っていればこんな弊害はなかったのだ。というか、わたしをまきこまなければはなからこんな問題は起こってない!
「ふざけるなよ、魔王ッ!俺は茉莉花に会うために、普通は帰ってくるのに二月かかる魔境を四日で帰ってきたんだぞ?!」
「ご苦労なことだな」
「うるさいッ!……────茉莉花、茉莉花!ということで、俺と同衾しよう!!」
いや、なにが「ということで」?意味がわからない。
「近づかないで、すみやかに黄泉の国へ行って!地獄でもいい!!というか、土に帰れよもう」
「やっぱり遠回しに死ねっていってるよね?!照れ屋さんだなぁ、茉莉花は」
どうしよう、幼馴染みとわたしの間に深い、言語の違いという溝がある気がする。お願いだから、わたしにわかる言葉喋ろうか!!
「というか、なんで同衾?!」
「そこの魔王ばっかりずるいよ、茉莉花!俺と一緒に寝よう?!」
「やだよ。嫉妬の視線がいたいし、闇討ちされたらどうするの?!ジークは特別!」
そう、ジークは特別なのだよ。
なんていったって、安定感半端ないし、大好きな保護者様だ。
それに、一番わたしが困っているときに手を伸ばして、助けて、慰めてくれたのは玲音ではなくジークだ。
人よりも温かくて、優しかったのもジークと魔族の皆さん。だから、彼はわたしのなかでは特別だ。
「と、特別───……………」
玲音が絶句したあと、がっくりとその場に崩れ落ちたけれど、特別は特別。
だいたい、誰のハーレム要員のせいでこうなったと思っているのだね、チート君?!忘れたとは言わせないよ!!
と、さけびたかったけれど、やめた。
玲音ってば、石化してるよざまぁ。
「マリカもそう言っていることだし、帰れ」
優雅に椅子から立ち上がってわたしの横に来たジークは、ふんッと玲音を鼻で嘲笑う。
悪役っぽいけど、ハマってるね!流石イケメン!
「うるっさいッ!!!またくるから、茉莉花!茉莉花はきっと騙されてるんだよ!!俺が絶対救い出すから………「アルリード」
「はい、なんですかねぇ?愛しい陛下」
「いまなら、ヤれる。つまみだせ」
「了解」
「茉莉花ぁーーーーーーーーーーー」
一瞬、アルリードさんの目が輝いたきがした。というか、いつからそこにいた?
ズルズルと引きずられていく玲音を、笑顔で見送る。だって、勇者な幼馴染みのあのやろーがいなければわたしの生活は結構平和だしね。
だから「ヤれる」が「殺れる」に聞こえたなんて、気にしないよッ!!
殺しても死ななさそうだしね。
「マリカ………」
「なあに、ジーク?」
「私は、特別なのか?」
ジークがそう、わたしに問う。
勿論。大好きな保護者様だ。
「当たり前!ジークってば、安定感半端ないし大好きな保護者様だし、お父さんみたいだもんねッ!!」
「………そうか」
「迷惑?」
「いや、迷惑ではない…………………でもお父さんか………」
横にいるジークに飛び付いて、そのしなやかな体をぎゅうぎゅうに抱き締めれば、優しく抱き締め返してくれる。
それだけで、わたしはホッとできる。
騒ぎはたくさん起こるし、勇者な幼馴染みのあのやろーも来ていろいろ問題とかもあるけれど、以外とわたしは今の生活が好きである。
ジークがいて、魔族の皆さんがいるこの生活が。
──────でもやっぱり、勇者様の駆除計画は真剣に考えなければッ!!
このあと勇者様は宰相閣下から城の外にほおりだされます。ちなみに、人間の………勇者様とマリカちゃんを召喚した国の王宮には多額の請求書が………!───来るかもしれない(笑)
アルリードさんの敬語は嫌味。キレてる証拠です。