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閑話*とある魔族の喜び*

ジークの部下である、悪魔さんのお話です。


俺は、我らが魔王陛下の一の宰相であり親友である悪魔族の長・アルリードだ。

幼い頃から行動をともにし、イタズラも喧嘩も怒られるのだって一緒な親友には、悪い癖がある。

昨日だって、俺の補佐である悪魔に泣きつかれ、最後には足にすがり付かれてまでいたのだが、まったく反省している様子さえ見受けられない。


「おい、ジーク。お前またサボっているな?どうにかしろ、そのサボり癖。俺の配下を泣かせないでくれよ、魔王陛下?」


いくつになっても政務をサボり、抜け出す悪癖が抜けない困った魔王陛下は、今日も今日とて城を抜け出すらしい。配下に泣かれるのは俺だし、そのツケで残業させられるのも俺…………ではなく配下の悪魔だから、やめてほしいのだが、いくつになっても治らないらしい。

最重要書類だけ片付けていく小技も、ある意味こ憎たらしいしな。

それに俺は今夜、堕天使のアリエルちゃんとデートなのだ。定時前にごっつい捻れた角と尻尾と羽のついたおっさん………もとい配下の悪魔に泣かれるのは避けたい。

そう考えて、ペンを置いて出かける準備をしだしたジークに制止を促せば、渋い顔で違うと言われた。


「視察だ、視察。暗黒の森に侵入者がいるらしい。あそこの魔物は雑魚以外は片付けたが、外部からはいってきた新たな魔物のおそれもある。だからちょっと行って見てくる」

「できるだけ早く帰って来てくれよ?俺は今夜、アリエルちゃんとデートなんだ。ルノーに泣かれるのは避けたい。というかお前、それ現実逃避だろ?逃げるなよな、目の前の現実(しごと)から」

「…………わかっている」


すっかり準備を終えたジークは、颯爽と魔王城執務室の窓から出ていった。

いやいや、普通に門から行けよ…………そうは思ったが、魔族とは基本的にそういうものだ。

面倒が嫌いなのは、もう血の影響だろう。

宰相用の書類を片付けつつ、俺はジークの出ていった窓をチラリと見た。

火急の用事や問題ごとがなければ、暗黒の森は数時間程度で見て回れるだろう。魔物はちょっと前に狩ったしな。




そうのんびり構えていたら────…………


「誘拐?」

「違う。保護したのだ」


ジークが一人の娘を連れて帰ってきた。

魔力が感じられないことから、魔族でもこの世界の人間でもないことがわかる。

漆黒の髪と瞳の可愛らしい、小動物みたいな少女は、異世界からきたらしい。突然のことに目を丸くしつつも、俺はメイドをよんで少女の世話を任せた。


「どうしたんだ、あの子」

「マリカは勇者召喚に巻き込まれたらしい。幼馴染みが当代の勇者だと言っていた」

「追い出されたのか…」

「察しがよくて助かる。暗黒の森の侵入者はマリカだ。しばらく…………そうだな、マリカが望むだけの時間をこの魔王城に滞在させる。お前は今からアリエルに会って、必要なものを聞き出してこい」


メイドとマリカが奥に消えたあとジークが事情を聞き出せば、随分つらい思いをしたようだった。………───しかし、ここまでジークがあの少女を気にかけるとは思いもよらなかった。

侍女長であるアリエルちゃんに会いに行く道すがら、俺はジークの拾いものに思いを馳せた。

ジークは良くも悪くも感情が希薄な男だ。

冷血にして、無感動。ごく親しいものでなければ表情さえも動かさず、もて余すであろう膨大な魔力でさえ顔色ひとつ変えずにコントロールして見せる。

それなのに、先程ジークは笑みさえ浮かべるほどに機嫌がよく、コロコロ変わる少女の表情につられるように顔の筋肉を、今だかつてないほどに動かしていた。

誰だよ、アレ………………

何やら背中がうすら寒くなってくる。考えるのをやめよう。


「あ、アリエルちゃん!ちょっといいかな?」

「あぁ、アルリード様。お逢いしたかったですわ!陛下から伝言は受けております。年頃の女の子が必要なものは、この紙に書いてありますわ。あとで、城の備品置き場や倉庫を回って取りに行って下さいね」

「ありがとう、アリエルちゃん。服とかは………」

「わたくしが今から採寸に行って参りますの!わたくし、腕がなりますわぁ!ところでアルリード様、あの可愛らしいお方……マリカ様は陛下の恋人でいらっしゃいますの?でしたらわたくしどもは、嬉しいかぎりなんですけれど」

「まだ、恋人ではないだろうなーきっと」

「まぁ、残念。でも、あんな陛下のお顔は初めて見ましたわ」

「俺も。確実にジークはあの子に惹かれてるだろう、本人は分かってなくともね」

「マリカ様が陛下の癒しになってくださるといいですわね…………それはそうと、アルリード様。今宵の逢瀬、楽しみにしておりますわ。ではわたくし、そろそろ行って参ります」


にっこり笑って、俺の頬に口付けて軽やかに去っていったアリエルちゃんを、恐らくにやけているだろう顔で見送る。

彼女が言っていたとおり、俺もあの子がジークの癒しになってくれたらいいなと思う。ジークは執務はサボりがちでも、常に魔王という重責を双肩に背負っている。

それをそばで見ていて、表情を凍りつかせていくジークを見てきたからこそ、今のジークの変化は素直に嬉しいと思う。

俺はジークの口煩い宰相でもあるが、親友でもあるから。

そう、思っていたのだが………────





「お、ジーク。執務は…」

「もう終えた」

「え?早くないか…?」



マリカちゃんがこの城に滞在するようになってはや2週間。

毎晩のように彼女に添い寝してやり(おいおい理性もつのかよ?というか、お前本当に誰!?)甲斐甲斐しく世話を焼き、今までが嘘のように表情豊かになったジークを見ると、なんだかやっぱり背中がうすら寒くなってくる。

別人を見ているようでキモチガワルイ。

そう思うようになったのは、俺だけじゃないはずだッ!!




だが、親友が幸せそうにしているのを見れば素直にこれでよかったのだと思える。

粘着質そうなジークに気に入られたマリカちゃんはちょっとアレだが、マリカちゃんも何だかんだで来た当初よりは幸せそうだからいいと思う。

アリエルちゃんがマリカちゃんのところに入り浸っちゃって、俺に構ってくれる時間が多少減ってしまったのは寂しいが、相変わらず俺らはらぶらぶなのでいい。



いつになく幸せそうな親友を見ながら、喜びを噛み締めるのだった。

ジークさんは実は表情が薄い設定。

マリカちゃんに会ってからどんどん表情豊かになっていってます。

マリカちゃんに最初に会ったときには、初め、気まぐれに一緒に来るか聞いてみただけ。それなのに、自分が言った言葉に泣いたマリカちゃんに驚いたと同時に、庇護欲をかきたてられたのです。

そっからはとことんデレる……………部下に気味悪がられる魔王って………!!どうなのこれ?

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