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閑話*魔王様の心の内*

お久しぶりの、更新です!

今回は初のジーク視点のお話。

少女に声をかけたのは、気まぐれだった。



暗黒の森に侵入者がいるとの報告を受けてから、三日。

重要書類だけ処理をして、気分転換がてらに暗黒の森に様子を見に行った。


──それでなくとも、魔王城(あそこ)は息がつまる。


向けられる畏怖の視線に、のしかかる魔王というなの重責……たまには、それらから逃げ出してもいいだろう?

アルリードに釘を刺されたことを思い出したが、また忘れることにした。少々執務をサボったところで、たいしてなにも変わらないだろう。

ルノーの胃に穴は飽きそうだが……

そんなことをつらつら考えていた時、不意に奇妙な気配を感じた。

魔物ではなく、魔族でもない。けれども、こちらの人間とは異なる、異質で奇妙なものだ。


「勇者……か?」


だが、勇者にしては存在が希薄というか……加護がまったく感じられない。

不思議だ──

ちょっぴりの好奇心に突き動かされて、木々の間から、その気配のするほうをのぞきこんだ。


「人間、だな。それも異世界人か」


魔力の欠片も感じられない人間など、この世界には、いない。

だから、おおかた魔王討伐のための勇者召喚かなにかに巻き込まれた異世界人だろう。

黒髪の少女を見つめながら、そうけんとうをつける。

ふらふらと歩く、華奢で小柄な体はたよりなさげで……

まだ、幼い少女を魔物だらけの森に放り込むなど、魔族でもしない。

鬼畜だな。そう思いながらも、ちょっとした庇護欲が芽生えるのがわかる。

よし、連れて帰ろう。

瞬間的にそう決断する。

大丈夫。拾っても面倒みきれる自信はある。

ここに置いて帰れば、いくら魔物をおおかた片付けたとはいえ、ちょっと寝覚めの悪いことになるだろう。それに、雑魚だけとはいえ、まだまだ魔物はたくさん潜んでいる。

捨て犬を見つけた時のような、ほっとけないかんじと、魔族特有の気まぐれに突き動かされて、少女に近付く。

その細い腕を掴めば、少女は大袈裟なほど肩を震わせた。

その様子が、痛ましい。


「いきなりすまない。だがお前、なぜこの森を3日もうろ うろしている?」


そう聞けば、一瞬驚いたような顔をしたあとぼそりぼそりと話し出した。


「頭の軽い…いや、悪いお姉さんに、追い出されました」


やはりな。

人間はときに魔族よりも鬼畜で、嫉妬深くなる。

人間同士のいさかいに巻き込まれ、勇者にも巻き込まれたのだろう。

そう思えば、やっぱり放ってはおけなくて、一緒にくるかと問う。

我ながら、柄ではないことをしている自信はあったが、こうなってしまえばもうどうでもいい。

ポカンと口をあける少女が、返答するのを待つ。

少し間抜けな表情が、可愛い。

可愛い? そんなことを思ったのは、初めてだ。

不思議な感覚に内心首を傾げつつ、じっと待った。


「い、いいの?」


困惑したような、混乱しているような、掠れた声がかえってくる。


「いいに決まっている。ってなぜ泣く!?」


それに普通に肯定すれば、泣かれた。

は? なぜだ。なぜ泣く?!

怯えて泣かれたことはあっても、こんなに安堵したような……迷子の幼児がやっと親を見つけて思わず泣いてしまったような、そんな泣かれ方をするのは初めてで、どうしていいかわからなくなる。

とりあえず、泣き止んでほしい。

おろおろと、表情にはけして出さずに考える。

そうしたら、不意にわかった。


「大丈夫か?不安だっただろう?……お前、異世界人だろ う?魔力がないのは、この世界ではあり得ない。おおかた 、勇者召喚にでも巻き込まれて、放り出されたのだろう? 」


不安、だっのだろう。

見知らぬ地で、見知らぬ人のなか、放置されて。

きっと少女のあまり良いとは言えない、自らを追い出した人間への評価や言葉遣いは精一杯の強がり。


その姿が、自分の姿と重なった────


肩にかかる重責に、膨大な魔力を宿すことからの孤独感……ジークの場合は、アルリードやルノーやアリエルがいたから一人ではないと思えたが、この少女は今真に一人だ。

声をあげて泣く少女に、自分が隣にいてやりたいとふと思った。





泣く少女をなんとか落ち着かせ、城に連れて帰った。

はじめは城の皆にも、アルリードにも驚かれたが、なんだかんだいって少女──茉莉花を歓迎していた。

そして、自分が魔王だと知っても変わらなかった茉莉花が、特別な存在になるのに、そう時間はかからなかった。


「ジーク!」


嬉しそうな、最初の頃には見ることのできなかったほころんだ笑顔を浮かべながら走ってくる茉莉花を器用に受けとめ、抱き締める。

小さなぬくもりが、心地いい。

ふんわり笑う茉莉花に、この表情が見れるなら、なんだってしてもいいという気さえしてくる。

だから────



(だから、勇者よ……お前がその気ならば、私は全面戦争も辞さない)


(たとえ、保護者扱いでお父さんと言われようが、茉莉花を守るのは私だからな)



安定の、茉莉花ちゃんの保護者様でした!

前のお話から随分時間がたっているあげくに、今回のは閑話ですが、こんな感じにぼちぼち書いていきますので、これからもよろしくお願いします!!



瑠璃華

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