勇者様の幼馴染みの受難!
『勇者様の幼馴染みの受難!』と『勇者様の幼馴染みのその後の受難!』を結合して、改稿・加筆したものです。
異世界召喚に巻き込まれました。それを言えば、誰もが思わず「病院行く?」と聞きたくなるかもしれない。
が、実際にそれがあるのだよ!
わたしも、被害者なのだ。
幼馴染みが受けた、勇者召喚の!!
眩い光に突然包まれたかと思えば、そこは見たこともないほど豪奢な部屋で、周りを取り囲むようにして立っていたのは、神父やシスター見たいな白い服を着た外国人。
しかも横には幼馴染みときた。
最初から嫌な予感しか抱けない面子。逃げなかったわたしを誉めてほしい。
ちなみにわたしは通学途中で、たまたま幼馴染みの後ろを歩いていただけだった……泣きたい。
なんだかんだで、幼馴染みが勇者と判明し、オマケであるわたしは明らかに邪魔者だった。
それでも、取り敢えずは勇者の幼馴染みとして丁重にもてなされていたと思う。
それが、勇者様のご機嫌とりのいっかんだとしても。
帰るに帰れず、悶々と過ごしていたら、幼馴染みが加護持ちだったらしきことや、チートくんであることも判明。
同じ人間で、日本人なのに、能力差がはんぱない。
「神様って理不尽!」
声の限り、わたし、松田茉莉花は叫ぶ。神様は理不尽だ!
なぜ、もともと人間離れした幼馴染みよりも、わたしにチートを授けなかった!?
「ちょっと!聞いていますのっ!?貴女なんかが神を語るなんて傲慢ですわ!」
嘆いていたら、この性格ブスな美人のことをすっかり忘れていた。
「貴女なんかが勇者様の幼馴染みというだけでも、貴女は神に感謝するべきよ」
正確には、美人たち。
王女、女剣士、魔女、という見事に女揃いの修羅場の中心に現在わたしはいる。
皆さん、幼馴染みのあのやろーのハーレム要員で、一番勇者の近くにいるわたしが気にくわないらしいのだ。
わたしとしては、できるくらいならばいますぐ替わってほしいくらいなんですけど!!
「貴女見たいなちんちくりん、お呼びでなくてよ!」
いやいや、好きで呼ばれてここにいるんじゃないんですけど………?
先程から喋っているのは、王女と魔女だけだが、いい加減わたしもうんざりしてくる。
あいつと幼馴染みなのは不可抗力だし、こっちだって迷惑しているのだよ!
そうは叫んでみたものの……頭の軽いらしいお姉さんたちにはとどかなかっようだ。
せっかくの美人なのに残念過ぎるよ、あなたたち。って、わたしをどこに連れていこうとしてるのだね!?
ああ!ホントの本気でチートが欲しかった!
「ここ、どこ?」
わずかばかりお金と、あとは身一つで、暗黒の森と呼ばれる魔物のうじゃうじゃいるところに放り出されたわたしは、本気で神と運命を呪いそうだ……。
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暗黒の森に、嫉妬に狂ったお姉さんたちに放り出されて、はや3日……。
結論からのべれば、もうボロボロ。
食べ物も最低限だし、いつ魔物が出てくるかもわからないのだ。
なぜだ……わたし前世で神様に嫌われるようなことでもしたのか!?
そんなことを考えながら、今日も出口を探してさ迷い歩く。
「ダイエットアイテムも真っ青だよね…」
この森をさ迷いはじめてまだ3日だが、かなりお腹の肉が減った。むしろ余分な肉なんて、ないかも。
本当にわたしがなにしたというのだ。
神様と幼馴染みとお姉さんたちに呪いの言葉を送りながら、道なき道を歩いていると、突然道が開けた。
嘘かと思うだろうが、実際のことなんだよ!
一瞬で、今まであった森がなくなった……もう、泣いていいかな?いいよね?
なにか嫌な予感しかしない。この感覚は、召喚に巻き込まれた時にも感じた…。
よし、帰ろう。
ここまでこれたわたしは、すごいと思う。だが、この現象は魔法の力によるものに違いない。
チート君なあの幼馴染みのやろーの魔法ににている気がしないでもない。
回れ右しよう!
「あっ!?」
と、思ったところ、誰かに後ろから二の腕を捕まれ、引き寄せられてしまった。
やっぱり切実にチートが欲しい…生活力でもいい!誰かわたしに授けてくれ!
はい、現実逃避ですよ!
なにか心がやさぐれてく気がする。
「いきなりすまない。だがお前、なぜこの森を3日もうろうろしている?」
そんなわたしの心境などお構いなしに、低い美声が聞こえてきた。
ゆっくりと振り返れば、銀髪に真紅の瞳の、美形の姿があった。
「頭の軽い…いや、悪いお姉さんに、追い出されました」
イケメンは、声までもが完璧。そう思いながら、聞かれた質問に答えた。
このさい、コレが何者かは問うまい!
「……そうか。では、一緒に来るか?」
そうやって、他人事のように捉えて、彼の顔を見ていたら、思いもよらない言葉がかけられた。
はじめてわたしにかけられた、心からの優しい言葉。
「い、いいの?」
がらにもなく声が震え、頬をなにか熱いものが伝う。
「いいに決まっている。ってなぜ泣く!?」
そういわれて、やっと泣いているのに気がついた。
「大丈夫か?不安だっただろう?……お前、異世界人だろう?魔力がないのは、この世界ではあり得ない。おおかた、勇者召喚にでも巻き込まれて、放り出されたのだろう?」
「ぅっ、ふぇ っそう、なの」
不安だった、という言葉がストンと胸に落ちてきて、また涙がこぼれた。
確かに、不安だったし寂しかった。
訳の分からぬまま追い出され、魔物に怯え、食べ物に困って3日を過ごした。
異世界に来てからはじめて、まともな、気遣いの言葉をかけられたのだ。
─────嬉しくないはずないし、好きにならないはずないね!
その日は彼…ジークと名乗った、に連れられ、大きな家に泊めさせてもらった。ぶっちゃけ城だった。
そして翌朝、やっとまともな睡眠をとれたわたしは、気持ちよく目覚めた。
隣に寝ていたジークは、まだ寝起きみたいだが…。
え、なんで隣にジークが寝ているのかって?
別に他意はなく、お恥ずかしながらわたしが一人で寝れなかったからだ。親切にも添い寝してくださったよ、このイケメン!
いや、きっとジークはわたしのことを子供扱いしているのだ。だから、保護してもらえたわけで……わたしも安心して一緒に寝れるのだ!
うん、運命と神様とお姉さんたちはまだ本気で呪ってるけど、親切な人にも会えたので、そこは感謝している。
と、思ったら……彼が魔王でした!
「陛下!仕事してください~~~~~!!後生ですから!溜まりにたまってるんです!!」
そんな部下さんが、寝室に乗り込んできたため発覚。
嫌な予感の正体はこれかっ!
明らかに人ではない、捻れた角と尻尾をもつ悪魔な部下さんがだったが、人間よりよっぽど優しく、他の魔族の人も皆が親切だった。
だからかもしれない。
よっぽど人間より魔族のほうがいいと思ったのは……!
わたしが(城っぽい家だと思っていたら、本当に城だった)魔王城で暮らすことを決断するまでに、そう時間はかからなかった。
松田茉莉花、異世界人!
チートと生活力は無理だったけれど、保護者と居候先を見つけました!
大好きな保護者に昇格したジークと、部下さんたちに囲まれて幸せなんだけど……ここが魔王城だってことは、勇者一行がもうすぐやって来るよね?
やっぱり、前世で何かしたのかと、暫く思い悩みそうだ……。