3話(0820改稿)
俺は夢を見ているような気分だった。
今目の前では魔王が約定を書いたマジックアイテムの契約書に各国の統治者がサインをしている。
各国の王や皇族達は堂々としているが、最後まで強硬に反対したローラ教団の教皇が恐ろしい笑顔の魔王に怯えながらマジックアイテムの契約文書に震える手でサインした。
その光景を見て見届け人として連行されて来た各国の重鎮達や居合わせた騎士達が見届ける。
降伏文書の調印式にも見えるが、中身は至って平等、もしくはこちらに有利な内容で、本来ならば泣くような物では無い。
そう。これは魔王が主催して即席で行われた新6ヶ国同盟の調印式だった。
俺は玉座の間に転移してから何があったかもう一度思い出す事にした。
確か何者だと叫んだ王は俺達と魔王を見て何があったのか察し、衝撃のあまり玉座から崩れ落ちる。
反抗しようとした者達は即座に魅了攻撃で無力化された。
そして魔王は恍惚とした表情の騎士に触り古代の失われた魔法らしき物で騎士の持つ知識を得る。
そしてあれよあれよ言う間に魔境と国境を接する各国の主だった王侯貴族や皇族と重鎮達にローラ教団の教皇と幹部達が拉致されて来た。
彼らは暫く唖然としていたが我に返り戦おうとするも武器の無い事に気付き混乱する。
そんな状況を見ながら魔王は言った。
「我は魔族領、お前達の言い方だと魔境の五大魔王が一人、ルミエルである。」
言った瞬間何人かの貴族やローラ教団の幹部が自分の主を守ろうと魔王を亡き者にしようとするが、たちまち魅了攻撃の餌食になり恍惚とした表情で倒れる。
「安心しろ、我にお前達を害するつもりは無い。」
そう言ってから魔王は武器を持っていない俺の腕を掴んで真ん中に引っ張り出した。
拉致されて来た全員が魔王の言いたい事を理解して青い顔をする。
勇者様は負けたのか…と。
忽ちどよめき声が響き、何人かの重鎮が卒倒するなど混乱する中、俺は頭を下げて大きい声で言った。
「申し訳ありません、魔王に全く刃が立ちませんでした。」
俺は怒号や罵声を覚悟したが、静かになって暫く誰も言葉や物音も発さなかった。
そんな中魔王が言う
「勇者は確かに強かった、だが我には傷一つ付けられなかった。
少なくとも勇者より弱いお前達に文句を言う資格は無い。
ましてや魔法が衰退した今のお前達で我を倒せるとも思えん。」
まさか魔王に擁護されるとは思わなかったが、誰も言葉を発さなかった。
「そもそも我の軍勢は人間界に一度も侵攻していない。
人間界に侵攻しているのは我がグリンデンバルド王国と敵対している石火帝国、魔王ルシファーの軍勢だ。」
どよめき声が響く。
魔王は一旦言葉を区切り、周囲を見渡してから言った。
「そこで提案がある、お前達の国もかなりの損害を受けていると聞く、元凶を無くす為我がグリンデンバルド王国と同盟を結ばぬか?」
言った瞬間またどよめき声が響いたが、俺も提案に驚いた
「示せる証拠は有るのか?。」
アリストガルド帝国の皇帝が言った。
「私が確認した限りですが、鎧の色が違います。グリンデンバルド王国で見たゴブリンの鎧は青で、侵攻して来ている軍勢の鎧は赤です。しかし、我々でも確認する必要があると思います。」
その後グリンデンバルド王国領に調査団が派遣され、グリンデンバルド王国側の支援を受けつつ調査団が石火帝国へ潜入するなどして疑惑は晴れ、本日の同盟締結へと繋がった。
調査隊はゴブリンやコボルトなど本来知性の無い筈の魔物達に大歓迎され大いに困惑したそうだ。
調印後再度会議が設けられ、各国がグリンデンバルド王国と同盟を組む魔境内の各国と協議する為グリンデンバルド王国へ人員を派遣して詳しく作戦を話し合う予定になった。
今の所各国と連携しながら石火帝国を包囲しつつ俺達と魔王で石火帝国へ潜入、魔王ルシファーを討つ作戦に変わりは無いだろう。
他には同盟に反対した強硬派の貴族達がローラ教団の一部勢力と組んで調印前に各地で貴族が反乱を起こそうとしたが…グリンデンバルド王国から派遣された淫魔部隊にあっさり骨抜きになったそうだ。
兵士達は罪を問われず帰されたが、魔王の希望で首謀者達は罪に問われず、そのまま淫魔に拉致された。
これは俺が実際に見たのだが、笑顔の淫魔達が貴族や神官に見える縄でぐるぐる巻きにされた人物達を抱えてパタパタと飛んでいた。
魔王曰わく今頃精気を吸われ、淫魔の素晴らしさを味わって半月もすれば考えが変わって人魔共存に貢献するだろうとの事だった。
その間反乱を起こした貴族の一族から無関係の人間を選んで領地運営に当たらせる形になるようだ。
だがまだ油断は出来ない。
今回の争乱に関わらなかったローラ教団の本体が穏健派と過激派に分かれて不穏な空気になっているようだ。
それで各国が情報を収集している段階のようで仮に教団に何かあれば勇者として介入すると言って置いた。
勇者はあくまで対魔族用の最強戦力としての立場を取っているので例外もあるが基本的に国同士の争いなどに極力干渉しないようにしているが、今回の場合人族と魔族の繋がりを作ったのは俺で、ローラ教団の分裂にも多少の責任がある、勇者として、人間として責任は取らねばならない。
各国首脳も俺が動いた方が助かると考えていたようで、全面的な支援を約束された。
他には予想通りではあったが、魔王ルシファーと石火帝国に対する本格的な作戦が始まるのは暫く後だと分かった。
それで俺と仲間達は城兵に一言言ってから久しぶりに街へと繰り出した。
街に着いてから俺だけ行き先が別だったのでみんなと別れ、久しぶりの単独行動を楽しんだ。
だが…平穏な俺の単独行動は泡と消えた。
「フハハハハハ!!!逃げても無駄だぞ勇者!!!諦めて我の夫になれ!!!」
何故か俺はパタパタと空を飛びながら追い掛けて来る可愛い魔王から逃げ回る羽目になるのだった。
「たっ頼むから考えさせてくれ!!!」
そう俺は叫ぶが
「考える時間は婚約した後にいくらでもあるぞ!!!ワハハハハ!!!」
おいおい、
涼しい顔でパタパタ飛びながら追い掛けてくる魔王、対して人を避けたり屋台の隙間を通り必死に逃げ回る俺。
誰がどう考えても俺がバテて動けなくなるのがが先。
詰んでいるよな、これ。
30分ぐらい逃げ回るとマリアとサラにルカを偶然見つけ、3人は停止した俺と魔王の間に割り込んで来た。
俺は助かったと安心し、膝に手を付いて息を整える。
彼女達は魔王に叫んだ
「魔王!!!思い通りにはさせないわ!!!」
「シリウスは渡さない」
「なにデレデレしているのよ!!!馬鹿。」
ルカだけ俺に八つ当たりして来た。
だが何やら俺を渡さないとか不穏な言葉が聞こえたが気のせいだろうか。
固まる俺にサラが言った。
「シリウス、大好き。」
うっ嘘だろ…唖然とする俺に
「あ~抜け駆けはずるいよ!!!私もシリウスが大好きなんだから!!!」
マリアが真っ赤になりながら半ばやけになって叫ぶ
俺は思考停止寸前で頭がパニックになった… 。
うっ嘘だろ…サラ、マリアも俺の事が好きなのか…
だが
「わっ私だってシリウスの事が好きよ!!!察しなさいよね!!!馬鹿!!!。」
真っ赤になりながらルカが叫んで追い討ちをかける。
るっルカまで…おっ俺は…どうしたら。
目の前では3人の少女と翼で浮遊した魔王が睨み合う。
「フハハハハハ、我の恋路を邪魔するか娘達よ!!!」
睨み合う4人、俺は頭を抱えるしか無かった。
難産でした。
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ローラ教団に関する項目を追加し、各箇所を手直ししました。