第三章外伝③:2人の距離
冒険の数日後。
比部と斉藤は、久しぶりに二人きりになった。
「しかし、ここも昔と変わらないっすね」
プレハブのような外見の建物を見て斉藤は言う。
それは、彼が幼少の時からほとんど変わっていなかった。
「死んだおばぁの事も考えると建て替えるのも忍びないからにゃ。本当に、おばぁはこの変な家が気に入っとったからね。昭和の名残とか何とか良く言ってたがや」比部はそう、腕組みをしながら言う。
「最初に来た時は驚いたなぁ。扉を開けたら、あのお婆さんの鬼のような形相が目の前に飛び込んで来たから、正直、ビビッて何もできなかったですよ~」
「おばあは、怒る時はしっかりと怒る人だったからな。あん時は、サッカーボールが飛んできてこの家の壁が凹んだんだっけか? まあ、あの通り、きちんと謝ればちゃんと許してくれるし、後に引きずらないのが、おばぁなんだよな」
「そうですね。それに、あの事件があったから、こうしてくら姉さんと知り合う事が出来た。怪我の功名とはこういう事を言うんですよね」
「あはは、まったくだがや! ……しかし、斉藤君とも長い付き合いになるな」
「そうですね~、小中高と一緒だったすからね。くら姉は一学年上だから、先輩後輩の関係でずーっと引っ張り回された感じですけど、楽しかったなー。こうして今、プロレスの道に進めたのも、高校の時に先輩が設立した<総合格闘技研究部>で、ブロディやホーガンの試合のビデオを何度も見たり、無茶っぽかったり、意味不明だったりなトレーニングを散々した結果ですしね!」
「あの特訓を活かせたのは、斉藤君、お主の力だよ。そこは、認めているつもりだがや。だから、あの時、お主にわざわざ頼みに行ったわけだし」
「姉さん……」比部に肩をポンと叩かれると、斉藤の顔は赤くなった。
「ええと、あのですね……」
「んん? どうした、急に?」
「くら姉は、まだ、結婚とか考えてないんですか?」
「急に、どうしたんだがや? 随分じれったい言い方をしよって。織田家の人間には言いたい事を、はっきり言うのが良しだぞ!」
「ああ、ええと……そろそろ、認めてくれないっすかね?」
「だから、はっきりと! プロレスラーなんだから、強気の姿勢を崩すな」
「はい……」斉藤は目を瞑って大きく深呼吸をする。そして準備が整うと、はっきりとした口調で言い放った。「くら姉! どうか俺と、結婚してください!」
「……」
普通赤面しそうなプロポーズの言葉だったが、比部の表情は特に変わらなかった。
あっけらかんとした顔で、斉藤の方を見る。この反応に斉藤は大いに困った。
「ええと、くら姉……?」
「ああ、今のお主には無理だな。」
「あがっ!? そ、そうですか……はぁ」斉藤は大きくうなだれる。
「悪いけど、ワシはまだ独身生活ってものを謳歌したいんだ。結婚が人生の墓場って極端なことを言うつもりはないけど、実際色々と自由が利かなくなっちまうだろうからね。それに……織田家とは深く繋がらない方が身のためだと思うぞ」
「くら姉? でも、もうあのフラガラックを守る仕事は無くなったじゃないですか! 一体何が、しがらみになっているんっすか?」
「確かに、滅びの定めからは逃れた。しかし、我が一族はいつかは世の中から消える定めだろう。遅かれ早かれな」
「それを、くら姉さんが担う事は無いじゃないですか!」
「斉藤君、お主もプロレスラーなのだから女性にはモテるだろう? 悪いことは言わん、他をあたった方が幸せになれるぞ。ワシらはやっぱり、幼馴染の先輩と後輩がお似合いだがや」
「俺は、昔からくら姉さんに憧れていた! 高校のときだって、ああいう状況だから言えなかったけどずっと思ってたんっす! 他に代わりなんて、考えられないですよ! どんな障害があっても、くら姉一筋ッス!」
「……ふうん」比部は、口元に右手を当てて考えるような仕草をする。
「そこまで、言うか。それならば……」
「姉さん?」
「よし……じゃあこうしよう! お前が次のプロレスの試合でこちらの要求を完璧に満たして勝利したら。その話、乗ってやるがや!」
「は、はい!」斉藤の目ががみるみる輝きだした。
「それで、どうしたらいいんです!? 何でもやりますよ!」
「そうか。それじゃあまず第一に、次の試合はお前の必殺技のアイアンクローを一切使わずに1ラウンド中に勝て! そして、勝つまでの間にDDT、、パワーボム、カナディアンバックブリーカー、延髄切り、ドロップキックをそれぞれ2回決めて、最後はコブラツイストで相手をギブアップさせろ!」
「ええっ!? それって、あまりにも無茶なんじゃ……」
「何でもするんじゃなかったのか? それに、無茶なのはこのワシの十八番だがや!」
「ふーっ、相変わらずだなぁくら姉は……わかりましたよ、やってみます」
「あはは! まあ、頑張ってくれ、斉藤君!」
2人の子弟関係はまだ当分は続きそうな感じであった。
次回が遂に最終回となります。
ここまで読んでくれた人、お疲れ様でした!(ぺこり)




