もうひとつの「大須」
大迷宮の先に待ち受けていたものとは?
そこにあったのは、見たことのある光景だった。
目の前には十字路があり、地下鉄上前津駅へと続く地下道が歩道の角にある。伸びる道路の先を眺めるとPCショップやコーヒー店、ゲームセンターなどが見える。私たちが出てきたところも、なぜか古書店の入り口だった。
まるで、大須そのものである。
しかし大きく違うのは、まるで海の中にいるかのような、光がゆらゆらと揺れ動く水面のような空と、それに照らされてすべてのものが青く輝いていること。そして、人の気配が全くしないことだ。つまり、おそらく、ここは大須であって大須ではない。
「とんでもないにゃー! 大須がそっくりそのままあるじゃにゃーか」
比部は驚きのあまりか言葉遣いが猫語みたいになった。
「ほんとですね~」対して、まく朗の冷静なこと。
「リトルワールドもびっくりの再現率ですね!」
私たちが、そうやってそのある意味幻想的で、ある意味怪奇な光景を眺めていると、どこからともなく、声が聞こえてきた。最初はぼんやりとしていたが、暫くするとはっきりと聞こえるようになる。
『≪アウター大須≫へようこそ……呑気な人間たちよ』
「誰だ!?」比部がとっさに刀を抜く。
『まあ、そんなに慌てないで。詳しいことは、後でゆっくりしようよ? これから僕が指示するから、言うとおりに歩いてきてくれ』
「……わかったよ。みんな、ちゃんとついて来いよ!」
私たちは、その声に従い、その大須の商店街を歩く。
ただ、その声の指示の仕方がいい加減で……
正しいときは「こっちにおいでよ」
間違った道に行くと「そっちじゃないよ」
としか言ってくれない。
これじゃあまるで、どっかの戦士様が空飛ぶ靴を探しているみたいだ。わざと脇道に行ったら、優しい触手スライムに出会うかもしれない。
とにかく、そんな適当な指示でたどり着いた先は大須観音だった。
いや、正確には大須観音があるはずの場所。そこは、隕石でも落ちたかのように窪んでおり、数メートルもある大きな階段状の祭壇があった。そして、その下に立っていたのは、片目を髪で隠した少年らしき人物だった。私たちは、彼に近づく。そして、近づいてすぐただならぬオーラが漂っているのを私は感じた。
「どうだい、≪アウター大須≫は? よく、出来ているだろう」
「そうだな」比部は腰に手を当てて答えた。
「お前さんがこれを作ったっていうのなら、感心するほかないがや。向こうにあった電車やバスもお前さんが持って来たのか?」
「そうだよ。実は、あれは複製品なんだけどね……あれくらいのものを作るなんて造作もない事だよ。さて、織田比部。君と会うのは初めてだね」
「ワシの事を知っているのか?」
「勿論さ……由部からも聞いていたしね。しかし、君は大したものだよ、いきなりお客さんを連れてくるなんて。しかも……」
「うん?」
「その中の1人が<振我楽>を手にすることを望んでいる」
「!?」
少年の目が鋭く私の方を見た。同時に比部も私の方を見る。
そういえば、比部には振我楽を探しているとは言ったが、それを自分の手中におさめる事については言っていなかった気がする……ならば、ここで素直に認めた方がよかろう。
「ジャンヌ、お前、やはりただ見学に来たわけじゃなかんたんだな……」
「そうだ、比部。私は<振我楽>が、ある剣と同じものならば何とかして譲ってもらおうと思っていた」
「ある剣?」
「フラガラックのことかい?」少年が声を大きくして口をはさむ。
「!? ……ああ、そうだ。その言い方から察するに、やはり同じ物ということか」
「そうだよ。しかし、遂にこの剣を求める者が現れたんだね。いつか、来ると思ってたよ……君、名前は何て言うの?」
「ジャンヌ=ダルクと言っておこう」
「へぇ……」少年は一瞬目を細くする。
「それじゃあ、コチラもそろそろ自己紹介をしないといけないな。……僕の名前は、アールガルス=デ=フォー。神剣フラガラックを護る者……所謂、<守護神>と言う奴さ」
神。少年は、自らを神と呼んだ。
それにしても、覚えにくそうな名前だ。




