崖っぷち
大洲地下迷宮の地図に書かれていないところまでジャンヌ達はやってきた。
その先に待ち受けるものとは?
ひゅぅぅぅぅぅ
こんな地下なのにどこからともなく隙間風が吹いてくる。
風は、吹きすさぶ春風に似たような音をこそこそ出していた。
その風に導かれて、螺旋状になった道を回るように歩いていく。
ここはもはや大須ではないと、私はほぼ確信していた。
「涼しいですね! 冷房がかかってるみたいです」と、まく朗が手を広げて言った。
「ああ、自宅のエアコンより快適かもしれないな」
途中までの、やや暑くて湿度の高かった場所とは大違いだ。
少し前まで汗でベトついていたものがあっという間に乾ききった。
「しかし、このぐるぐるはいつまで続くんでしょうね?」
「わからん」
「このままだと、回りすぎてバターになっちゃいそうですよ」
「それはないな……ほら、あそこで終わりだぞ」
長い螺旋の道は終わった。
そして、その先に見えたものは、とんでもない光景だった。
「うわー、ヤバいっすね!」斉藤さんも驚きを隠せないようだ。
「ここを歩いていくんですか。こりゃ大変だわ」
目の前にあるのは、底なしの谷。
谷の底は真っ暗闇の暗黒で何も見えない。落ちたら、おそらく命はあるまい。
通ることができるのは壁沿いにある両足がやっと乗るくらいの細い通路だった。
「うわー! 世界がまるみえなテレビ番組に出てきそうな光景ですね! 何だか催してしまいそうです~」
まく朗は怖がる様子は全くない。むしろ喜んでいるようだ。なかなか肝っ玉が太い奴である。
対して、悲しきかな私の方は、お尻のあたりがくすぐったくなっている。正直なところ、私は高所恐怖症なのだ。しかし、そんな情けないことは口に出しては言えまい。
「うほー! 全くすごいところだがね! なんだか冒険してる気がしてきたのお! よしよし、みんな慎重に進めよ」
比部は、特に気にすることもなく、私たちにゴーサインを出す。
簡単に言ってくれるものだ。もし、ここを歩いてる時に何かあったらどうしようもないと思うのだが。
斉藤さんを先頭に、私たちはゆっくりとその細い道を命綱無しでゆっくりと壁を両手で掴みながら歩き始めた。はっきりいって、想像以上のスリルだ。前を向いて進もうとしても、横に広がる奈落の底が見えてしまうし、ひゅうひゅうと吹く風が螺旋通路にいた時よりもいやに強く感じる。なんだか地に足が着いていないような錯覚に襲われて、風で吹き飛ばされないかと言う恐怖が常に付きまとった。臆病な人間ならば、一歩も進むことができないだろう。しかし、私は高所恐怖症であっても臆病ではない。足はがくがくと震えるが、前を歩く斉藤さんの足を止めるほどに遅れることはなかった。
「みんな、大丈夫かー!?」斉藤さんが声を張り上げる。
「大丈夫だがや! 斉藤君こそ気いつけてな!」比部が元気そうに言う。
「はい! ……あっ!?」
「どうした!?」
「道に穴が開いています! 何とか通れますけど、気を付けてください!」
「わかったがや。……ジャンヌ、まく朗、あんたらは華奢だから無茶するなよ」
はいと言う余裕はなかった。しかし、内容は十分理解した。
目の前の道の崩れた部分は結構広く、足を大きく開いてやっと届くような感じだが、臆してはならない。臆すれば足を踏み外す可能性も高くなるだろう。私は、ひとまず大きく深呼吸をした。
震える足の片方を、向こう側の道のあるところに伸ばす。
次に壁を強く握っている手の片方を前方に移動させる。
ゆっくりゆっくり……
「ジャンヌ様!」
ビクッ!
私の体が硬直した。何か起こったのだろうか!?
「ファイトです~漏らさないでください~」
はあ……こんな時に応援かい!
まく朗と言う奴は、こういう時はとってもデンジャラスな存在になるな。向こうはほとんど怖いもの知らずみたいだから、そのKYさが実に恐ろしい。
とりあえず、何とか私は無事その大きな穴を渡ることができた。
しかし、道はまだずっと先まで続いている。終わりは、まだ見えていなかった。




