名古屋巫女ガール
コスプレ衣装を見ながらときめくこと数十分。
そろそろ場を離れようとしたところ、そこには<まそだらけ>でも見た巫女装束の女性が……
私は、今回も特に気にはせずに通りすぎるつもりだった。
ふつう、大抵の人は同じ判断をするだろう。いくら、目立つ格好をしてるからってイベントでもないだからそんなにポンポンと見知らぬ人に声をかける筈もない。敢えて聞くほどの質問があるわけでもないし。
しかし、私達に気づいたその巫女装束の女性は違った。
「おお、また会ったなーコスプレ少女君」
「……はい」
「こんな平日の真昼間からこんなとこ来るなんて、あんたらも好きやのぉ!」
あんたには言われたくない。まさに今、量産型アツガイのTシャツを買ったあんたには。
しかし、初対面の人間にそんなツッコミを入れるのは無理だった。
「あの、本物の巫女さんですか?」まく朗がとりあえず一番気になる質問する。
「あったりまえやでぇこの格好やし巫女さんに決まってるがね! ちゃーんと、神社で働いとるよ」
生徒会長的な端正な顔つきからは想像できない豪快な方言で彼女は話す。
どうやら名古屋弁のようだが、何か微妙に違う気がする……
「それで、あんたらはどこから来たん?」
「えーと、私は坂祝で……ええと、こちらの方は、ああ、秘密だそうです~」
まく朗のナイスアシスト。
鶴舞に住んでいる事は誰にも秘密なのだ。
「ほー、岐阜からわざわざ来たんか! それはご苦労やったねぇ。そんなら、せっかくやし、こう言うとこばっかや無しに大須らしいところも見に行きゃあせ」
「大須らしいところ?」
「そうやで! 大須っていうのはこういうオタク向け文化だけやない。色々と長ーい歴史の中で培われた色んな面白いもんがあるんよ! 大須はあんたらが思ってるよりディープなんやでぇ」
重ね重ね思うが、あんたには言われたくない。
ただ、ここまで言うんだから本当に詳しいのかもしれない。しかし、この巫女さんに力を貸してくれとまでは言えなかった。
「じゃ、そういう事で! お土産いっぱい買って帰りぃよ。」
「はい」私とまく朗の言葉は同タイミングだった。
「しかし、二度あることは三度ある……か」
「え?」
「また、どっかで会うかもしれんなぁ。あんた達とは!」
そう言うと、巫女さんはハハハと爽やかに笑い、爽やかに階段を下りて行った。
私は、彼女がいなくなるまでただ呆然と立ち尽くしていた。一体なんだったんだろうか、あの人は?
「面白そうな巫女さんですね~」まく朗が、そんな私の横で嬉しそうに言う。
「まあな、話しかけてくるとは思わなかったよ」
「そうですね……あ、ジャンヌ様、私ちょっと排泄したくなってきたのでかわやに行ってきますね」
「わかりにくい言い方だが、要するにトイレか。ああ、わかった……あ!?」
「ジャンヌ様?」
買い物に夢中になっていてすっかり忘れていた。
そういえば、私はさっきからトイレに行きたかったのだ。
思い出した途端、一気に尿意がこみ上げてきた。
階段を上るまく朗に、私はそわそわしながらついて行った。
まったく、我ながら不覚である。




