浪費家の英断=衝動買い
まそだらけの同人コーナーで好きな漫画の同人誌を探すジャンヌ一行。
居座ること約40分。
結局私は中古の同人誌を4冊買ってしまった。中古といえど人気漫画のものとなるとそんなに安価ではない。現世の母からもらったお小遣いを1000円ほど犠牲にした。朝のカラオケと昼食を合わせると4000円近くになっている。なんだか使いすぎている気がするが、もともと私は金銭感覚には疎い方だ。前世も、親の援助や国の援助が出ていたからお金には困った事はほとんど無かった。まあ、それでもまく朗よりはマシだろう。私の3倍近くのよくわからない本屋同人誌を買って諭吉さんが飛んでいた。現世の父も高給取りだが、彼女の家もよっぽど金持ちなのかもしれない。まったく、一体どんな暮らしをしているんだろうか?
「はー、今日もたくさん買っちゃいました!」
「私もだよ。疲れると言いながら、結局長居してしまったな」
<まそだらけ>の横にある自販機でジュースを買い一服する。
あれだけ長い事暑いところにいたので、久しぶりに飲んだコーラがとてもおいしく感じた。
まく朗が買ったのは、某ヒーローの柄の描かれたサイダーだ。
「炭酸飲料ってお腹に空気溜まりません?」
「それは同感だな、暫く腹が張って苦しくなるんだよ」
「そうそう、お腹がパンパンになっちゃって。上からゲーップするか下からブパッと出すか迷いますよね~」
「私は、ゲップはしないんだよ。出来ないっていう方が正解かな? だから、下の一択しかないわけだ……って、思わず話につられてしまったではないか!」
「いいじゃないですか、そのくらい。ゲーーーップ!」
これが恋人募集番組だったら、100人中88人はNGサインを出すだろう。
それくらい残念な、言うなればオオヒキガエルのようなゲップだった。オルレアンの乙女達は男性の前では決して清楚な態度を崩さなかったものなのだが、やはりこの世は末法に向かっているのだろうか?
「さーて、それじゃあ次は<ギーサイト>に行きますか! ゲップ」
「あせらなくてもいいぞ、まだ張ってるんだろ?」
「いいんですよ~どうせすぐには引っ込まないし。すぐ近くなんで案内しますね!」
そう言って、まく朗は空き缶をゴミ箱にポイと捨てると西に向かって歩いていく。
私は、正直トイレに行きたくなってきたが、我慢してついていくことにした。
店は突き当りのすぐ右にあった。
<まそだらけ>と比べたら随分と小振りの店だが、縦に長い何だか角ばった建物だ。
早速中に入ると、これまた大量の本が並べられていた。
ただ、客に関してはさっきほどはおらず、割りと涼しい。
「一階は本とゲームです! 2階がさっき言ったように<COSPO>で3階がカードショップになってるんですよ」
「ふーん、こっちは新書ばかりだな。珍しい雑誌もある」
「そうなんですよ~向こうにある六洋堂書店もマニアックですが、月刊誌ならこちらの方が上かもしれませんね~」
「ふーん……おおっ、これは<暗夜のナイトメア>の設定資料集じゃないか! こんなものまで売っているとはな」
「ジャンヌ様、買っちゃいますか?」
「むう……」
私は財布の中を確認した。
諭吉が一枚、英世が3枚。
対してこの設定資料集は……何と3800円!
本なのに異様に高いぞ。でも、欲しい。欲しいけど高い。
……ってこら、私はジャンヌ=ダルクだろう!? 百年戦争においては抜群の判断能力を見せていたじゃないか。それが、こんな本の一冊を買うのくらいの事にめそめそ迷っているとは何と嘆かわしい事か!
「……よし、決めた!」
「ジャンヌ様?」
「買うぞ! 私はこの設定資料集を手に入れる!」
私は、軽やかにその本を掴むと流れるようにしなやかにレジへと向かった。
これが英断だったか、愚かな判断だったかはわからない。とにかく、私の財布の中の諭吉さんは遠い彼方(レジの中)へと消えたのであった。




