ときめき☆同人ライフ
古書店まそだらけに入った2人。
その広さと熱気に圧倒されるジャンヌだったが、全部見るのは疲れるだろうと、まく朗の進める4階同人誌売場へと向かうのだった。
1階よりは空いているかと思ったが、そうでもなかった。
ぎっしりと同人誌が挟み込まれた棚と棚との間には、更にたくさんの人間が挟み込まれていて、デラックスヒューマンサンドイッチとい言ったところだ。こんなところでもし暗殺者に出会ったら確実に始末されてしまうだろう。
「これまた、すごい量だ……」
「そうでしょ? おそらく県下最大じゃないかと思いますよ」
「そうか。しかし、同人誌ってのはみんな薄っぺらくて単行本のようにタイトルの部分が無いのがほとんどなんだな。これだと、いくらジャンル分けされていても探すのには骨が折れる」
「そうですね~私の同人誌とか、見つけるのに苦労しそうです」
「私の……って、まく朗は同人誌描いたことがあるのか?」
「はい、2年前に<コミカット>に出しました。委託販売ですけどね~」
「ほー、<コミカ>とは、有名どころの漫画即売会イベントじゃないか! それで、何の漫画の同人誌を描いたんだ?」
「Drスラ〇プですよ」
「なかなかマニアックだなーあんな懐かしい漫画の同人誌なんて。すごく、内容が気になるんだが……よかったら、教えてくれないか?」
「えーと、ニコチャン大王とその家来がイチャイチャする仄々BLです~」
「ああ……そう……」
やはり、そこはまく朗だった。
あんな卑猥な形をした緑色の宇宙人二匹があんなことやこんなことをする漫画なんて、一体全世界のどこに需要があるんだと言いたい。
「40冊擦ったんですけど、完売でしたよ! 続編は考えてなかったけど、今度描いちゃおうかなー?」
売れた理由は、ネタと認識されたからに違いない。
そういう意味でなら確かに極上の一冊だと思う。
「さて、それじゃあせっかく来たことだし<BEダンシング>のコーナーを探すとするか」
「<BEダンシング>はメジャーな漫画ですから、多分ナ行のある棚に行けばありますよ! 新刊コーナーにもあるかもしれませんね」
「じゃあ、先に新刊コーナーの方から行くか」
まく朗に案内されて、サンドイッチの具の中を歩く。
こんな込み合ったところを歩くのは、防衛線時の城内或いは、小学校の頃行った夏祭り、正月の初詣くらいだ。立ち読みする重装歩兵並みに幅がある典型的オタク系男子の脇をすり抜けて、私たちは目的の新刊が並ぶ棚にたどり着いた。
そこにも、何人かの腐れ女子がいたのだが、その中に1人、私の目を引く者がいた。
明らかに他とは違う恰好で、その女性は同人誌を漁っていた。
コスプレだろうか?
その赤に白が生える巫女装束を着た女性は、私たちに気づくと小さな微笑みを浮かべ、「やっぱもん!」と言うタイトルの一冊の同人を手に取り、颯爽とレジへ歩いて行った。
私とまく朗は暫く彼女の方を見ていたが、まあ大須だからあんな人もいるのだろうと思って、特に気に留めることはしなかった。そして、視線は再び大量の同人誌達に戻る。




