Introduce―紅い瞳の少女
今回の話は、前回と前々回の中間点です。
空白の時間の補完…ってやつですか?
解りづらいかもしれませんが、生暖かくお願いしますm(__)m
◇ ◇ ◇
目の前で繰り広げられている光景に、俺は不謹慎だと思いつつも目を奪われていた。
だってソレは、あまりにも優雅だったから。
だから、少女が男の正拳を受けて空を舞った時は正直ピンとこなかった。
例えるなら、そう、漫画の主人公が敵の親玉にやられたとする。でも、ソレは実際にはやられていなくって……土壇場で復活し、親玉をやっつける。
そんな、現実味のない、ただの幻想。
だってそうだろ?
吹っ飛ばされた女の子はぐったりとしていて、口からは血が……真っ赤な血液が溢れ出している。
ほら、ここからどんな逆転劇が待ってるっていうんだよ。
幻想はただの幻想に過ぎず、結局その幻想が現実へと変わることはない。
男は転がっている女の子に近寄ると、その白い首に手をかけた。
―――このままじゃあの子が殺される。
そう、思った。だけど……。
「……くそ」
握り締めた拳が震えている。無理はない……と思う。
俺は無力なただの人間で、あんな化け物みたいな男に勝てるわけないって、そう頭の中では解りきっていたのだから。
そうだ……早くこの場から逃げ出そう。
そんな考えが浮かんだ。元々俺はコイツ等とは無関係なのだ、別に俺が何をしようと俺の勝手……ケンカしたけりゃ二人だけでやればいい。
そう、俺には関係ない。だから、俺は逃げて良いんだ。
「……」
逃げようと、この場から逃げ出してしまおうと……そう思うたびに湧き上がる焦燥感。
なんだ? 何を焦っているんだ、俺は……。
なにも焦る事なんてないじゃないか。
―――少女の細い首に男の殺意が触れた。
何を焦る事がある?
―――少女の命に殺意が触れた。
ナニヲアセルヒツヨウガアル?
―――うるさいッ!
俺は頭に響くその声を掻き消した。
解ってる、ホントは助けたいって……そう思ってる事。
でも、怖い。死ぬのが……怖い。
その時、俺は確かに聞いた。何か重たい物が、地面に転がる音を。
最初はそう、鉄パイプか何かに見えた。でもソレは、鉄パイプのような無骨さを感じさせない。
そんな、美しい日本刀。
抜き身の細い刀身は、月光を浴びて輝いているように見えた。
俺は、その儚い光に吸い寄せられるように―――
―――煌く刀を手に取った。
もうやるべき事は決まっていた。一刻の猶予も許されない今、俺に迷うことなんて出来ないのだから。
そうして俺は、男に背後から近寄ると―――
―――その背中へと凶器を振り下ろした。