紅い瞳の少女/月下鮮血(中)
今回はかなり短めですが、前の話と後の話を繋げる役目があるようなないような感じの話ですので、まったりと気にせず読んでください(((^^;)
「ぐ……あああぁぁぁ」
なにが起きたのか解らない、という面持ちで男は背後へと振り返る。
そこには―――
―――見知らぬ人間が立っていた。
手にするは白銀、数多の同胞を斬り、その血を浴びてなお白く輝く究極の一振り。
気にも留めていなかった人物の予想外の行動に、男は驚きを隠せなかった。
「てめぇ、何者だ?」
男は忌々しげに怒鳴り声を上げた。
その質問に青年は、笑ってしまうくらい単純な答えを返す。
「村上亮……高校生だ」
男は一瞬、意表をつかれたというような顔をしてから、少しだけ楽しそうに笑った。
「あっはっは、おもしれぇ……。俺は不死身、本名じゃねぇが、こっちの名前の方が気に入ってる。村上、亮……だっけか? なんのつもりか知らねぇが、邪魔するっていうんならお前から先に殺す」
名前を名乗ったのは男……不死身の、僅ばかりの騎士道精神からだ。
とりあえず少女から自分へ目標が変わったことに多少の安堵間を憶え、青年……亮は不死身へとその眼光を向けた。
こうなったら……後には引けない。
たしかに殺されてしまうかも、という事に恐怖はあるが。
でも……と青年は思った。
それでも今、自分が少女の為にしてやれる事がこれだけしかないっていうのなら、ソレに全力を傾けるだけだ……と。
「約束……しちまったからな、俺にできることならなんでもするって」
そう呟いて、亮は刀を構える。
殺那、不死身がその巨体を青年へと疾躯させた。
例えるならソレは肉食動物の疾走。獲物を捕え、その命を絶つ……捕食者の一撃。なんの慈悲も救いもない一方的な略奪。逃げる事を許さず、生きる事を許さず、祈る事さえ許さない。圧倒的に一方的に暴力的に……。
だからソレは殺人。
あまりに一方的な……人生の終幕。
そんな不条理を、村上亮という青年は真っ直ぐに見据える。
勝てるとは思っていない。
でも……。
始めから負けを認めるのだけは嫌だった。
「じゃあな」
男は一言だけ告げて拳を振り下ろす。
青年を殺すために、その殺意を込めた一撃を。