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黄昏世界/兆し

◇ ◇ ◇



 嵐に見舞われた輪廻。宿主は見放され、呪いはヒトへと飛び火する。


 王は、新たなる王に討たれるだろう。


 昼と夜とが争って、黄昏が訪れる。箱庭の王は歓喜し、龍は地に堕ちるだろう。


 血を好む鬼が、ヒトを喰らう。


 夏の残滓が残る九番目。黒い月が照らす晩、王と鬼とは息絶える。


 世界が滅びた後、ヒトだけが生き残るだろう。


 そしてまた、新たな輪廻が始まるのだ。


―――先見の書、十二番目の詩より



◇ ◇ ◇



 ぱたんと軽い音をたてて本を閉じる。ふぅ、という軽い溜息。


 薄暗い部屋。閉め切られた地下室は酷く蒸し暑く、2、3本の蝋燭が蜀台より僅かに照らす室内は読書に適した環境であるとは言い難い。そんな部屋の中で長時間字面を追っていた彼女は、酷く疲れていた。



「根を詰めても仕方がないな……」



 一旦休憩をとろうと、古びた椅子から立ち上がる。


 瞬間―――視界がぐにゃりと歪んだ。



「―――!?」



 後方に流れる体は、しかし床に激突する事無く空中で静止した。



「ひゃっ!?」



「休憩ってのはもう少し早めにとるもんだ、お嬢」



「―――っ……はぁー……いつも言っているが、突然現れるのを止めろ」



 背中を支えている人物が自分の見知っている者であった事に少女は胸を撫で下ろす。



「お化けかと思ったじゃないか―――来栖」



 よいしょと体勢を整えて、少女―――雛森瑞希は背後の男を睨む。


 来栖と呼ばれた男は薄く笑みを浮かべると、悪びれもせずに答えた。



「ヒーローってのは突然現れるもんだぜ」



「お前が『ひーろー』って珠か……で、なんの用だ?」



「いや、大した用事じゃないんだが―――」



 言い難そうに視線を泳がせるが、ギロリと少女に睨み付けられると観念したのか、コレは興味本位で聞くんだがと前置きして言った。



「また、村から出て行くのか?」



「……そうしなければならないだろう」



「老婆心になるかもしれんが忠告だけはしておく。村を出るな」



 彼女の答えを既に予測していたのだろう。まるで最初から台詞を用意してあったかのように、間髪いれず男はそう言った。



「しかし……」



「次に村を出たら―――間違いなく殺されるぞ」



 まるで脅すように、語気を強める。村で最も信頼している人物の予想外の態度に少なからずショックを受けたのか、瑞希は大きく目を見開いた後、放心した様にうなだれた。


 その様に男も動揺したらしく、再び視線を泳がせる。男は慌てて付け足した。



「あ、いや、勿論このまま此処に居る事が安全だとは言わない……けど、少なくとも今は、お嬢に危害を加える素振りは見えないんだ。お嬢が無茶しなきゃ、暫くは安全なんだぜ? それをむざむざと……」



「でもッ!」



 頭を上げた少女と、来栖の視線が交錯する。そして男は見た。


 少女の、澄んだ紅い瞳を。


 彼女の意思を代弁するかのような、真っ直ぐな眼差し。自分の言葉では彼女の意思を曲げる事は出来ないと、来栖は直感的に理解した。



「……ちっ、解ったよ。そんな目で俺を見るな。―――ただし、条件がある」



 顔を背けて、素っ気無く言う。



「一つ、護衛として俺を連れて行く事」



 お嬢一人じゃ何かと危ないしな、と続ける来栖。じろりと睨みつけた瑞希が口を開く前に、男は続きを口にした。



「そしてもう一つ……。二度と村には戻らない事」



 瞬間、瑞希は表情を凍らせて……ソレを隠す様に答えた。



「っ、何を言い出すのかと思えば、そんな事か。まぁ、来栖がそうしたいのならば勝手に付いてくれば良いし……村になど、もとより戻るつもりなどはない」



 そっぽを向く少女。男は辛そうに彼女を見据え、僅かの後、言った。



「そこまでして会いたいなんて……『亮くん』ってのはよっぽど良い男なんだな」



「なっ……!?」



 予想外すぎる男の一言に、彼女は頓狂な声を上げた。



「なななな、来栖っ、お前、な、なにをナニを、何を言ってるんだっ!」



「まぁ、此処には若い男も少ないし……都会に行けばそうなるのも道理って訳なんだろうけどな。……でもなんていうか、お嬢のそういう話しってガラじゃな……痛ッ! ちょ、痛い痛い!」



 ビュンビュンと、手近な古書を来栖へと投げつける瑞希。勿論、それぞれがかなりの歴史を持った一品だ。それこそン十万からン百万までの値段が付く、由緒正しきお宝なのである。ソレを手当たり次第に投げるなど、罰当たりもいいところだ。もっとも、耳まで真っ赤に染めている彼女にしてみれば半ば自棄糞といった心情なのだろう。


 手に負えないと判断するや否や、来栖はそそくさと書庫を立ち去った。



「はぁ……はぁ……まったく、来栖のヤツめ」



 突然なんて事を言い出すんだ。瑞希は両手に持った弾丸を机の上に戻すと、まだ赤くなっている頬に手をやった。



「―――あつい」



 クラクラする熱っぽい頭で彼女は考える。彼女の刀を奪った、憎らしい彼の事を。



……



「もとより戻るつもりなどはない、か」



 闇に支配された地下書庫を後にした来栖は、先程彼女が口にした言葉を反芻する。


 本当の自分を押し殺して紡いだ、彼女の強がりを。



「無理しやがって。泣き虫め」



 不機嫌そうに呟いた後、彼は口元を不敵に歪めて空を見上げた。


 アイツが行くと決めたのならば、俺が道を切り開くと。



◇ ◇ ◇



その四日前。



◇ ◇ ◇



「おーい、ちょっとトンカチ取ってくれ!」



「違う! そこはそんな色じゃない!!」



「ねぇねぇ、ここの設計だけど」



 騒然とした教室。スタートの時点で周回遅れにされているウチのクラスは、その分ハイペースで行動しなければならない。


 そんな訳で、ウチのクラスは文化祭準備に沸き立っているのである。ちなみに俺達衣装係は、何故かその名目とは裏腹に教室で雑用をやっていた。



「ちょっと村上君! ボケッとしないで!」



「あ、ゴメン」



 多数の木材を抱えた女子に怒鳴りつけられ、慌てて教室の隅に移動する。


 はぁ……なんでこんな事になったんだろう。今日は衣装作りの参考にDVD鑑賞をしよう、って話しだったのに……。



「―――そう言ってサボる気でしょう!」



 参考資料でDVDを見る云々の事情を説明しに行った小高は、委員長にそう突っ返された。まぁ当然っちゃ当然か。昨日アイツ話聞かずに寝てたし。



「やっぱり人選ミスだな」



 小高に行かせたのが不味かった。やっぱこういう時に頼れるのは宮山だ、うん。


 って事でヤツが再交渉に行っている間、俺と小高は必然的に雑務をこなす事になったのだ。  

 そうして話しは今に至る。


 手先の器用な小高はあちこちに出向いているが、不器用な俺はむしろ邪魔者扱いだ。今では教室の隅で誰にも相手にされず、一人みんなの作業を眺めている。


 よし、今から俺はみんなを見守る係りだ。


 なんてアホな事を考えていたら、宮山が教室に滑り込んできた。



「亮! お許しが出たぞ!」



「ホントか!?」



 俺の問いに、ガッツポーズで答える宮山。俺もつられてガッツポーズを返した。



「よっしゃ、やっと雑用からオサラバできる!」



 唐突に現れて、小高が言った。



「おう、お疲れ様。んじゃ帰ろうぜ」



 そうと決まればちゃっちゃと支度だ。


 その辺に放っておいた鞄を拾うと、俺たちは教室を後にした。



……



 電車に揺られる事十五分。目的地―――宮山の家が存在するK市(いつも遊びに行く隣街より一つ下った駅)に到着した。


 寂れた隣街とは異なり中々に発展しているK市は、DVDのレンタルも駅前で容易く行うことが出来る。


 五分と経たず、宮山が店から出てきた。材質のよく解らない袋を持っている……その中に借りてきたDVDが入っているのだろう。


 借りてきたのは有名なホラー映画の二作目と三作目……らしい。


 正直に言うと俺は映画を見ない。それどころか、普通のテレビ番組すらロクに視聴しない……強いて言うのなら朝のニュースくらいだ。



「まぁコレはそれぞれの話しが独立してるから、二作目からでも話しは解るよ」



「そうか? なら良いけど……ん、どうした小高? 顔色悪いぞ」



「いや―――それ、かなりやばいヤツだぞ……」



「? 小高ってホラー駄目だっけ?」



 そりゃ計算外だと宮山がぼやいた。俺たちの半歩ほど後ろを歩いていた小高は、小さな声で否定した。



「むしろ好きなくらいだよ……けど、ソレは例外。前に見たとき気分悪くなった」



 確かに、昨日の様子を思い出してみてもホラー映画が苦手な様には思えない。リアルがポイントだって言ってたし。


 とすると……宮山の借りてきたモノは余程恐ろしいものに違いない。



「マジかよ……なんか俺まで不安になるじゃねーか」



「大丈夫だって。まぁ、なんだったら途中で止めてもいいんだし……っと、到着」



 質の良い家々が林立する閑静な住宅街の中心。そこに宮山家は居を構えている。なんでも製鉄所建設の都合で移動になったとかなんだとかで、この辺りは立派な家が多いらしい。宮山家もその恩恵(と呼んでいいのだろうか?)受け、やたらとデカイ家に住んでいる。



「おい亮! なにやってんだ」



「ぁ、悪い悪い……」



 ついつい考え込んでしまった。


 駆け足で玄関を潜る。



「とりあえず先に部屋へ行っててくれ。俺はなんか飲み物持ってくから」



「あいよー」



 答えて、俺と小高は二人だけで宮山の部屋へと向かう。階段を上って突き当たり……木製のドアを開けると広々とした空間が広がった。



「よっこいしょ」



 言って、小高は適当な所に腰を下ろす。俺もつられて、掃除の行き届いたフローリングへと座った。


 ほどなくして部屋の主がやってきた。



「麦茶しかないけど、別に良いよな?」



 小型のテーブルに丸いお盆を置いて、確認するように言う。お盆の上には透明なコップが三つと、半透明のポットが乗っている。



「ありがたく頂戴するよ」



「実は喉カラカラでさぁ」



 俺と小高は順番にそう言って、麦茶をコップへと注ぐ。


 パソコンのスイッチを入れ、宮山も床へと座った。



「クッションいる?」



「いや、俺はいいや……亮は?」



「俺もいいよ。それより宮山……それは?」



 宮山がお盆と一緒に持ってきた、ファンシーなアイテムを指差して尋ねる。いたって真顔で、宮山は答えた。



「コレ? これはスケッチブック。気に入ったデザインとかあったらスケッチできるように持ってきた」



「あー、成る程。んで、誰が描くんだ?」



「うーん……出来れば小高に描いて欲しいんだけど……DVD見てる最中に気分悪くなったりしたらアレだしなぁ」



 考える事数秒。宮山は自分で描く事にしたようだ。


 ちなみにいつだったか三人で勝負した結果、絵心ランキングは……一位ぶっちぎりで小高、二位宮山、三位俺となっている。


 って事で宮山の判断は概ね正しい。俺を頼ってくれなかったのはちょっと寂しいけども。



「んじゃスタート」



 慣れた手つきでDVDをドライブにセットし、プレイヤーを起動させる。


 そうして、有名映画の上映会が始まった。



◇ ◇ ◇



 初めて見るホラー映画に、青年は感心していた。そういう物とは疎遠だった亮にとって、その体験はあまりにも衝撃的であったのだ。


 随所に見受けられる大掛かりなアクションシーン、派手な演出は花火じみた鮮烈なイメージを青年に与えた。


 緻密な伏線、迫るような緊張感はホラー映画と呼ぶのに相応しかった……もっとも、それが純粋なホラーではなく、どちらかといえばアクション映画に近いモノである事に亮は気付いてはいないが。


 始めは顔色の悪かった小高も、案外平気な様子でDVDを観賞している。顔色の優れない同級生を心配していた宮山も、ふぅと胸を撫で下ろした。


 そうして、無事に上映会は閉幕―――となる筈であった。


 ソレは物語が佳境に差し掛かった頃の事。



「……あ」



唐突に―――



「あ……あぁ……あ、あ……」



―――亮の様子が一変した。

*11/22追記

本文を大幅に改変しました。

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