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ホタルノヒカリ/魔術師


 アイツがいなくなって、もうすぐ二週間になる。日常へと帰って来た俺は、今までどおり平凡な学生生活を送っていた。



「亮! お前赤点いくつだ?」



 授業中……と言ってもただのテスト返却だが……ドタドタとやってきた小高が、やけに真面目な顔をして聞いてきた。



「今回は一つもないぞ? 日本史は危なかったけど」



 ちなみに数学は92点だ、とさりげなく自慢をしておく。



「マジかよ!! 宮山は?」



「お前と一緒にするなよバカ頭が」



 教室の反対……夏の強烈な日差しが降り注ぐ窓側の席から宮山が答えた。



「ぬおおお! やっぱり俺はバカなのかァ! って、なんで宮山はネトゲばっかやっててあんなに点数良いんだよ!?」



 頭を抱えて悶絶している小高。ちなみにネットゲーマー宮山の謎の高得点はウチの学校の七不思議の一つである。俺の脳内で。



「くそッ、このままでは地獄の補習が……あぁー、俺の夏休みの計画がぁ!」



「諦めろ小高、運命だ」



 ポンと肩を叩く。テスト前に遊んでるからこうなるんだぞ?



「うぅ、神様って残酷……あ、そうそう、今日学校終わったら遊びに行かね?」



「突然だな……まぁ良いけど」



「よし、んじゃ決定な。おーい、宮山ぁー」



 あっという間に教室の反対側へと駆け去っていく小高。その背中が、去っていったアイツと少しだけ重なった。



………



 放課後。電車に乗って二駅……例によってそれなりの店が立ち並ぶ隣街にやってきた。


 相変わらず人波はまばらでいまひとつ『街』って感じのしない、発展途上というよりはむしろ寂れたという表現が適切なこの街。



 特に目当ての場所があったわけでもないので、到着早々路頭に迷ってしまう。



「で……どこ行くんだ?」



 言いだしっぺの小高に聞いてみるが、答えはいつもどおりの『ゲーセン』。



「ゲーセンってもなぁ……」



 うーんと唸る。まぁテスト明けだしゲーセンで遊ぶってのも悪くはないんだろうけど……。



「じゃあとりあえず目的地決まるまでゲーセンでダラダラしようぜ!」



「む、ナイス宮山! 天才的な閃きだ」



 やんややんやと盛り上がる二人。特に反対の理由も無いし、二人と一緒にゲーセンに入る。


 キンキンに冷えた店内。うっすらと浮かんでいた汗も一瞬で引いていく。


 平日だからか、それとも単に過疎ってるだけなのか……俺たち以外の客は旧式の二人打ち麻雀をプレイしている初老の男性だけだった。



「んじゃ早速……」



 手近なゲームを始める小高。



「宮山はやらんのか?」



「うーん、そうだな……んじゃちょっと対戦すっか?」



 そう言って指差したのはいつもの対戦格闘ゲーム。



「ふ、やりこみは裏切らない事を教えてやるぜ」



「んじゃあ負けた方が帰りの電車賃持つってことで」



「後悔すんなよ!」



 そう答えて、ヤツとは反対の筐体に百円を投入する。



「さて、と……」



 キャラクターを選択して、宮山の乱入を待つ。ガチャリ。百円を投入する音。ディスプレイに乱入者を告げる文字が表示された。



………



「くっそー、なんだよアレ」



 帰りの電車賃を賭けた勝負は、途中参戦の小高が優勝という結果になった。



「やりこみが足りないんじゃねーの?」



「うるせー! アレは純粋にキャラ差だ! なんだよ、あの投げのリターンは……」



 不満タラタラでゲーセンを後にする。


 ちなみに勝負が白熱して長時間プレイしていたので結局どこにも行かずに帰る事になった。集中してると時間が経つのが早い早い。



「―――」



「ん?」



 ふいに、誰かの視線を感じた気がした。



「どうした?」



「あ、いや……」



 不思議そうな宮山。小高も立ち止まってこちらを振り返った。



「―――」



「ッ……」



 間違いない。



「悪い、そういや集めてる漫画の単行本が今日発売だったの忘れてた」



「今から買いに行ったら次の電車になっちまうぞ?」



 時計を確認して小高が言った。もっとも、漫画を買いに行く、なんてのはただの口実なのだから実際は次の電車で帰れるかどうかすら解らない。



「一本くらいどうってことないよ。悪いけど先に帰ってくれ」



「そうか? ならそうするよ……行こうぜ、小高」



「ん。じゃあな亮」



 二人に手を振ってその場を後にする。



………



 本屋とは反対の、狭い路地に入っていく。この時間、人通りは皆無といって間違いは無い。


 黄昏時の伸びた影が二つ。一つは俺のモノ、もう一つは……。



「―――」



 くるりと振り返る。






 目の前に、奇妙な格好の女性がいた。





「アンタ、何者だ?」



 腰まで届く程の長髪。歳は二十二、三だろうか? 真夏だというのにも関わらず黒いロングコートを纏った人物に、俺は尋ねた。


 いつでも羅刹を具現出来るように、右腕に意識を集中しながら。



「その質問に答える前に一つだけ良い? あなた……雛森瑞希って女の子を知ってる?」



 質問に対し質問で答える彼女。でもこの場合問題なのはソレではなくって……。



「瑞希の関係者か!?」



 思わず声を荒げてしまう。瑞希が村へと帰った今、俺の元へやってくる理由なんて無いはずだ。それとも鬼の事を知ってしまった俺の口封じか?


 緊張が走る。意識的に敵意を向けて、眼前の女を牽制する。しかし当の本人は、ビンゴ! と能天気に言って、パチンと指を鳴らした。



「いやぁ、良かった良かった……じゃあアナタが村上亮君ね?」



 探したわよーと続けて、ヘラヘラと笑う。


 なんていうか、その……。



「俺を……殺しに来たんじゃないのか?」



 すっかり拍子抜けして、思わず考えていた事をそのまま口走ってしまった。



「ちょっと、殺すって……私そんなに危ない風に見える? あ、それとも拡大被害妄想家の電波な人……? いや、そんな感じじゃないけど……」



 なんだかすごく失礼な事を言いながら、俺の全身を舐め回す様に観察する黒コートの女。


 よくよく考えてみれば、確かに先程のセリフはまともな人間のものじゃない。冷静な人間のものじゃないのだけれど、つい先日まで異常な出来事に巻き込まれていた事を加味すれば、そこまでおかしな話しでもない。


 とりあえず気を取り直して、先程の質問を繰り返す。すると彼女はやはり能天気な微笑を浮かべた後、改まって言った。



「私の名前は天樹蛍。村上、亮君……あなたに頼みたい事が有るの」



「頼みたい……事?」



 コクリと頷く彼女。先程とは打って変わって真摯な表情を浮かべる。僅かに間を置いて、彼女は続けた。



「私は今、ある人物を捜しているんだけど……」



 アナタに手伝って欲しい。



「人探しを……? 一体なんで」



「詳しい事情は後で話すわ。それに頼みたい事はそれだけじゃ……亮君! 後ろ!」



「ッ!?」



 咄嗟に振り返る。


 一メートル程前方に、黒い靄の様なモノが浮かんでいた。一瞬錯覚かとも思ったソレはしかし実体を持っているようで、ふわふわとこちらに接近してくる。



「残留思念!? 亮君、それに触れては駄目よ!」



「え!?」



 女性……天樹さんがそう叫ぶのと、具現した羅刹がソレを両断するのは同時であった。


 弧を描く軌跡。無骨な鉄製の凶器により二つに別れた黒い靄は、次の瞬間に雲散した。



「驚いた……噂には聞いてたケド、かなり強力なのね、その刀」



 まじまじと羅刹を観察する天樹さん。噂という部分が気になったが、追求するのもアレなので聞き流す事にする。



「まさか破魔の力もあるなんて……後付ってワケでもなさそうだし、一体何年物なのよ……」



「あの……今のは?」



「ん? あぁ、ゴメンゴメン、夢中になっちゃって……。今のはこの辺りに漂ってた残留思念……あ、でもアイツの分割魂魄って可能性も……嘘、ひょっとしたら大チャンスだったんじゃ……」



「あの!」



 またもや一人でブツブツと始めたので、先程よりも大きな声で呼びかける。



「あ、いやぁ、ホントにゴメンね……。今のは残留思念……場所とか物とかに宿る死者の霊魂って言えば解りやすいかな? を使い魔として構成したモノよ」



……え?



 残留思念? 使い魔? 構成?



「まぁなんにせよ今ので決定的になったわ。間違いなく、アイツはこの街に居る」



「アイツ……?」



 オウム返しの様な問いかけに、天樹さんは笑顔で答えた。



「ええ、アイツ」




「ロード=ヴァレンディア・アトラクト」



 私と……




 私と同じ……





―――魔術師よ。



今回より三章となります。あいかわらずのまったり更新ですが、最後まで書ききれるよう頑張ります。

ご意見・ご感想あれば是非お願いします。

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