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夜景校舎/伏魔殿、突入

「な、瑞希?」



 でもお前……と続けようとして、瑞希に跳ね飛ばされた。



「走れ馬鹿者!」



 昇降口を挟んで正面を向いたコの字型をした校舎の教室棟……校門から近い左側の建物の影に走りこむ。


 どうやら『何か』の射手は反対の職員棟から狙撃していたらしい。



「弓だな、三階から撃ってきた……くそ、篭城戦では分が悪い」



 弓と言い切る瑞希。まさか、先程のあれが見えていたのか?



「説明が遅れた、私の能力だ」

 


 教員棟の様子を伺いながら続きを口にする瑞希。



「解理の眼、一定レベル以下のあらゆる事象をスローモーションのように『読み取る』力」



 そこで一旦間をおいて、限界まで発揮すれば未来予知レベルの行使が可能だ……もっとも、その後は三日ぐらい高熱と眩暈に襲われるがな……と続けた。



「成る程……って、納得してる場合じゃない。 お前、なんで……」



 俺の言葉は再び遮られた。



「突然家を飛び出して行くから驚いたぞ……まさかとは思ったが敵の術中に嵌るとはな」



 まったく、迷惑極まりないと言ってジロリと睨まれた。



……?



 それでは辻褄が合わない。俺は家を飛び出して行く瑞希を追って出てきたのだ、しかし瑞希は家を飛び出して行く俺を追って出てきた……。



「……あ」



 何故も何もない、俺の後から瑞希が現れたというのなら、答えは決まったようなものだ。



「幻覚を見せられていたのは俺の方だったのか」



 冷静になってみればなんて事はない。そもそも一般人代表の俺に瑞希の気配なんてモノが解る訳がないのだ。



「先手を打たれたって事だな」



「何を偉そうに……そもそも亮が」



「わかったわかった、俺がなんとかするから」



 不機嫌な瑞希の文句に割って入る。そんな事を聞いたからといって状況が好転するわけでもないし、放っておけば際限なく愚痴られる気がしたからだ。



「とにかく、敵さんが弓兵だっていうならこの位置関係は最悪だな」



 昔何かの本で読んだのだが、戦い……それも飛び道具を手にした場合、高所に陣を構える事は圧倒的有利を意味するらしい。三階からの眺めなら、恐らくこちらの動きは筒抜けだろう。無闇に飛び出しては良い的だ。



「……うん、瑞希は此処で待っていろ」



 思案、たった二秒。というか、他に良い手段が思い浮かばなかっただけだが。



「な、一人で何をする気だ?」



「昇降口まで全力ダッシュだ、一度や二度は撃たれるだろうけど……滅多な事じゃあ命に別状はなさそうだし、他に代案が有るってんなら考えるけど」



 新陳代謝の異常による、自然治癒のオーバーワーク。不死身の異能力を『吸収』した俺は、能力の根幹に繋がる脳を破壊されない限り、ほぼ無敵だ。


 あるいは斬首───先程瑞希から受けた説明によると鬼に備わる異能力は、司令塔である脳と、エンジンである心臓、それらを繋ぐバイパスである首が揃って初めて発揮されるらしい──だが、相手の得物が弓だというのならその心配は皆無である。



「代案はないが……しかし」



 先程とは打って変わって弱気を見せる少女。瞬間、昨夜の出来事が去来する。



「…っく……帰る…ひっ…所が…く……ないっ…の」



 ああ、まったく馬鹿らしい……。なんてことはない、結局は俺の我侭なのだ。



「心配すんな、もとはと言えば俺のせいだし……護るって、決めたんだから」



「え?」



 よし……。


 やることは決まった、後は行動するのみだ。


 大きく深呼吸する。大した距離はないとはいえ、少なくとも三秒間は一方的に撃たれ続けるのだ。出来るだけ集中力を高める。


 既に傷は治癒しつつあった。これならば戦闘に支障はない。



「よし、行って来る」



 短く告げた。


 瑞希を一人だけにするのは危険だが、無理に姿を見せなければ狙われることもあるまい。もし万が一という場合にあっても先程の力があれば時間を稼ぐ事くらいなら出来るはず。


 俺は一度だけ瑞希の方へ振り向くと、昇降口へと飛び出した。


 ヒュっという風を切る音。予想通りの狙撃、俺は怯むことなく走り抜ける。


 続く二射目、矢は俺を掠めてコンクリートを僅かに抉る。


 間違いない……奴は確実に俺の頭部を狙っていた。


 連続する発射音。三発目と四発目はほとんど同時だった。どちらともなく飛来したソレが俺へと直撃する。


 同時に俺は昇降口へと滑り込んだ。



「ッ……」



 どうやら一発貰ったようだ、左腕の感覚が鈍い。俺は出来るだけ呼吸を乱さないように注意し、職員棟へと歩を進める。


 暗い校舎……。日中の様子とはかけ離れた静謐な空間。イメージは教会……あるいは神殿か?

静けさの中に漂う神聖な空気。ヒトの踏み込めぬ聖域のような、そんな違和感。そう、ソレは墓地に似ていた。死を収集するその場所に潜む、確実な殺意。


 ソレはまさしく死神だ。



「はは、じゃあ弓は変だな」



 死神ならば鎌を持っているのが一般的だ。少なくとも俺はそう思う。


 弓を持った死神……うん、なんか斬新だな。


 俺は再び呼吸を整え、階段の前で立ち止まる。


 さて……。


 幻覚を見せる力……確かにやっかいではあるが……。ネタがバレれば対処する方法はいくらでもある。あとはいかに弓を突破するか……。


 もっとも、一太刀入れれば勝ちの俺に対して頭部を狙わなければいけない弓使いは圧倒的に不利だ。


 恐らく勝負は一瞬。


 俺は勝ちを確信して階段へと足をかけた。


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