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夜景校舎/瑞希先生の難しい授業(放課後)


 結論から言うと、俺はなんとか羅刹を扱えるようにはなった。


 瑞希の訓練は要領を得なかったが、少なくとも一日の成果としてはまぁまぁといったところだろう。


 彼女の言葉を借りると俺は大変筋が良いらしく、一、二週間あればタカ派の精鋭と戦闘になってもなんとか逃げ延びる事ができるようになるとか。



「うーん、逃げられるだけってのもね……」



 夕飯の支度をしながら、思わずぼやく。


 瑞希を守るという目的がある以上、瑞希を置いて逃げるなんて事は嫌だ。俺のワガママかもしれないが、出来る限り早く奴等に対抗する力がほしい。



「亮よ、案ずることはない……確かにタカ派の者どもは化け物ぞろいだが、お前の手には我々の崇める神の剣が握られているのだ」



 俺の心を見透かしたかのように瑞希が言った。



神の剣……ね。



「でも俺、剣道とかやったことないし……刀なんてうまく扱えないぞ」



「ん、そんな事は些細な問題だぞ。さっきも言ったが羅刹は保有者の異能を記録する……つまり、今まで羅刹を握っていた者たちの力をいっぺんに使えるんだ。お前の努力しだいでいくらでもやっていける」



 自身満々といった表情を浮かべる瑞希。



「なるほど。で、具体的にはどんな力を記録しているんだ?」



「うむ、私の知っている限りでは先代の『砕断』……そして私の『解理の眼』の二つだな」



……?



 瑞希の言い回しに違和感を感じる。



「知っている限りって、どういうことだ?」



「あー、この辺の説明はわかり辛いのだが……羅刹の異能を扱うにはある程度の実戦経験が必要になるんだ。ほら、ロールプレイングのゲームなんかでよくあるだろう? レベルが上がると新しい技を覚えるとか、そんな感じだ」



 厳密には違うんだがこっちの方が分りやすいからな、うん。と付け足して瑞希は割り箸を割った。



 出来上がった料理をテーブルに運ぶ。温かい湯気が天井へと昇っていった。



「でもそれおかしくないか? それじゃ新しい力を使えるようになったって分からないだろ」



 瑞希の正面に座る。



「そこの所は私にもよくわからん。気が付いたら使えるというか……そうだな、例えば赤ん坊は誰に言われなくても母乳を飲むだろう? 口を使って食事をする、なんて、誰に教わらなくても出来る。もとより備わっている機能だ、使えるようになれば自ずと使える」



 相変わらず瑞希の説明は要領を得ないが、それでも伝えたいことは解った……ような気がする。


 それにしても……。



「お前、ゲームなんてやったことあるのか?」



 なんだかどうでもいいようなツッコミをしておく。



……



……異変は、夕食の後すぐに起こった。



 ともすればそれは日常の一齣。しかしそれは、今現在において異常と言う他ない出来事。



 あまりにも突然に……瑞希が部屋を出て行った。



 最初はトイレかとも思ったが、瑞希の足音が向かった先は真逆。バタンという乾いた音と共に、瑞希の気配が消え去った。



「な……っ」



 突然すぎるその事実に、しかし俺の思考はしっかりと着いて行った。


 間髪いれずに席を立つ。乱暴にドアを開け放ち、俺は玄関へと急いだ。



……瑞希の靴がない。



「くそっ」



 先程の音……瑞希は間違いなく家を出て行った。


 何故?


 どうして?


 様々な可能性を押しのけて思い浮かぶ理由は一つ……。敵……タカ派の連中の異能力。おそらくは幻覚を見せるような、あるいは他人を操る力か?


 とにかく何らかの力によって瑞希を家の外に連れ出したのだ。そこまで考え至るのに一秒とかからず、自分でも驚くほどの速度をもって家を飛び出した。


 既に日の落ちた暗い街。街頭に照らされた道、既に姿の見えない瑞希の気配を俺は確かに感じ取っていた。



……こっちか。



 確かな確信のもと、俺は瑞希の後を追う。



 曲がり道の多い迷路のような住宅街を、気配だけを頼りに全速力で駆け抜けた。急勾配の坂を一息に登り、家々のならぶ下り道を落ちる様に下る。長いストレートでも速度は落とさない。

心臓が壊れそうでも常にハイペースを保つ。


 まるで弓矢か弾丸か、俺は一直線に突き進んだ。


 そうして行き着いた先は……。


 いつも見慣れた、学校だった。



「瑞希は……なんで此処に?」



 息を荒げながら独り言を呟く。とにかく中に……そう思った俺は、校門を越えて敷地に足を踏み入れた。


 そういえば今日は学校を休んだんだ、なんて考えが一瞬頭をよぎったその時……。



「危ない、伏せろッ」



 叫ぶ声と衝撃はほぼ同時。



 致命傷を免れたのは、その声に驚いて一瞬すくみ上がったせいだろう。



「ッ……う、あぁあああああああ」



 痛みが思考を埋め尽くす。



 真白く染められる脳は、俺にさらなる失態を犯させた。その場に止まるという、もっとも愚かな選択を。


 風を切る音が聞こえる。


 俺を救ったのは、今度も声の主だった。



「ッ…」



 突き飛ばされた俺のすぐ上空を『何か』が過ぎ去った。



「ええい、うつけが」



 乱暴な口調。かなり不機嫌な様子だ。そろそろとその声の主に視線を移して、俺は驚愕した。


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