共同生活
彼と僕の不思議な共同生活は、こうして始まった。
共同生活と言ったって、僕は家族と住んでいたから、正確には4人と1匹の共同生活だったわけだけれど、僕は念のため、彼のことは家族には内緒にしておくことにした。
喋るウサギの存在なんて知ったら、父は気味が悪いから捨てて来いと言いそうだし、母は驚きのあまり気絶しそうだし、姉は「かわいー!」と叫んで友達に言いふらしまくりそうだからだ。
だから僕はその日から、部屋に誰も入らせないようにして、夕食や朝食も部屋で摂ることにした。残ったぶんの食事を、彼にあげるためだ。
僕の行動に、母はいぶかしげだったが、姉が「あれぐらいの歳の子には色々あるのよ」とわかったように言うと、納得したみたいだった。そういえば姉も、高校生になったくらいから部屋に誰も入れなくなっていた。
彼は、人間の言葉を喋ることと目が青いこと以外は、普通のウサギにそっくりだった。食べ物も、ウサギと同じようにニンジンやキャベツなどの野菜を好んで食べた。
だけど彼の性格の方は、相当変わっていた。彼はとにかくわがままだった。本人に言わせると、彼は故郷である月では、王子様だったらしい。そのせいか、それが当たり前であるかのように、彼は僕をこき使った。
あるとき彼は、夕食に出たニンジンを食べやすく小さく切るように、僕に要求した。
「これを、私が食べやすいサイズにしてくれたまえ」
彼の偉そうな物言いに、僕はむっとして彼を睨んだ。
「どうして僕がそんなことしなきゃいけないのさ」
僕がそう言うと、彼はきょとんとした様子で僕を見上げた。
「どうしてって、そういうものであろう?」
つぶらな青い瞳で、まっすぐに見つめられた僕は、観念して箸でニンジンを小さく切ってやった。どんなにわがままで偉そうでも、彼の外見は小さくてふかふかなウサギなのだ。あんなふうにまっすぐな瞳で見つめられたら、なんだか僕が彼をいじめてるみたいで、それ以上怒る気をなくしてしまうじゃないか。
それ以来、僕は彼の要求に黙って従うことにした。はじめのうちは何度か反抗しようと試みたが、あの目を見るたびに僕は反抗心を奪い取られてしまい、結局は彼の要求に従ってしまう。
まあ彼にしてもそれほど無茶な要求をするわけじゃなかったから、僕にとってもそんなに問題はなかった。
彼と僕の生活は、こんな感じで続いていったのだった。