彼との出会い
5話で完結します。それほど長くないので、お付き合いいただけると幸いです。
僕が彼を「見つけた」のは、3年ほど前の夏の暑い日の、真夜中のことだった。
そうそう、その日が十五夜の、満月の夜だったことも付け加えておかねばならない。これは大事なことだ。
その日僕は、夜遅くまで自分の部屋で勉強をしていた。当時高校三年生、すなわち受験生だった僕は、予備校の模擬試験を間近に控えて試験勉強に必死だった。
別にそれほど志望大学に行きたかったわけでもないけれど、これ以上模擬試験で悪い点を取ったら両親になんと言われるかと考えると、自然と必死になるものだった。
当時の僕にとって、志望大学に入れるかどうかということより、どうすれば両親に、特に短気で頑固な父親に叱られずに済むかということの方がよほど重要だったのだ。
そんなわけで、僕がなるべく両親に叱られずに済むように試験勉強に精を出していた時、それは突然起こった。
カーテン越しでもはっきりとわかる、目も眩むような閃光。
そして、耳をつんざくような、重い爆発音。
その二つが同時に、部屋でひとり机に向かっていた僕に襲いかかってきた。突然の予期せぬ衝撃に僕は――かっこ悪いことに――椅子から転げ落ちてしまった。
これに関しては、少しだけ弁解させて欲しい。
その夜は――その出来事が起こるまでは――とても静かな夜だったのだ。
もともと僕の家があるのは住宅地の真ん中で、夜にもなれば人通りはほとんどなく、大きな道もないから車もめったに走っていない。それに、その日は両親ともに早く寝ていて、僕の2才年上の姉は彼氏の家に泊まっていて帰ってきていなかったから、家の中も静まり返っていた。シャーペンで字を書く音や、参考書のページをめくる音がやけに大きく聞こえるような、そんな、本当に静かな夜だったんだ。
そんな静かな夜に、突然、街中に響き渡るような爆発音と昼間の太陽の光のようなまぶしい光が飛び込んできた時の驚きといったら、誰もいないと思っていた夜の教室で突然後ろから肩を叩かれたときと同じくらい、いやもっとすごいかもしれない。
とにかく、あまりの驚きに、僕は椅子から転げ落ちていた。そしてそのまま呆然としてその場に座り込んでしまう。
あんまりに驚くと、人は何も考えられなくなるらしい。僕はかなりの間、その場でぼーっとしていた。
音のした方を見に行こうとか、何があったのか確認しようとか、そういったことには全く頭が回らなかった。
だから、いつの間にか部屋にいた彼にも、僕はしばらくの間気付いていなかった。
僕が彼に気付いたのは、僕に気付いて欲しがった彼が、床にへたり込んだままの僕の膝の上に飛び乗ったときだった。
「?!」
突然自分の膝の上に飛び込んできた白い物体に、僕は目を白黒させた。
ふわふわした感触と暖かな重みが、パジャマのハーフパンツからはみ出した僕のむき出しの膝に伝わってくる。
「う、ウサギ?」
それは、確かにウサギだった。いや、ウサギのように見えた。
白い毛に覆われた丸っこい体に、小さな頭から突き出した2本の長い耳。
そしてつぶらな、青い瞳。
――あれ? 白ウサギの瞳って、赤いんじゃなかったっけ?
しかし、僕の膝の上にいるウサギの瞳は、確かに青かった。真夏の海を思わせる、透きとおった深い青。
「……かわいいな」
膝の上に乗ったウサギのつぶらな瞳を見つめていた僕は、驚くことも忘れて思わずそう呟いていた。
それは、椅子から転げ落ちるほどの衝撃の後で驚きの感覚が麻痺していたからなのかもしれないし、そのウサギの瞳に不思議な魔力があったからなのかもしれない。
僕の言葉にウサギは、当然だ、とでもいうようにその小さな胸を張り、小さな頭を縦に振って、うなずいたように見えた。
さて、そろそろ彼のことをウサギと呼ぶのはやめにしよう。そうしないと、僕が彼に怒られてしまう。
彼の名前はムーン。
彼はウサギではなく、宇宙人だった。