19 旅立ち
見る影もない朽ち果てた佑斗の亡骸の前で、俺は身動き一つできずにいた。
〔「玲駄、お前は最高の親友だった…せめて、お前だけでも…」〕
…佑斗…
「これで、あなたは私だけの存在…私だけのモノ」
美冬が、俺の元へと近付いてくる。
「大丈夫…あなたをあんな風に殺したりしないから、安心して…2人だけの世界を楽しみましょう…そう、永遠に…」
…もはや、俺の耳には美冬の声は何一つとして届いてはいなかった。
何も考えられず視界を暗く閉ざした俺を、知ってか知らずか美冬は俺の眼前を覆いかぶすような形で顔を近付けてきた。
そして…
少し前に、教室でもしたように再び俺を抱きしめ…美冬の冷たい唇で、俺の口を閉ざしてくる。
…その瞬間、体の中を稲妻が走ったような感じがし、完全に体の感覚を失った。
…そう、まるで首から下を凍り付けにでもされたかのように。
…次第に、意識が薄れていき、代わりに激しい睡魔が全身に広がっていく。
「さぁ、何もかも忘れてお休みなさい」
…美冬の声も、徐々に遠退いていき、やがて霞みゆく意識の中へと溶け込んでゆく。
(…佑斗…浩弥…美冬…最高の…友人だった…のに…)
人は、永遠の眠りにつく時、全てを忘れ新たな扉を開くことができるのだろう…
今、一つ願うのならば、その扉の先に幸せな世界が待っていることを…